研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第2回 Part.2

第2回 バイオインフォマティクスでゲノム創薬への道を切り開く(2)
Part.2
試験管も実験台もない
「ドライな研究室」

東京理科大学 薬学部
生命創薬科学科 宮崎 智研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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ATGC。この4文字が私たち人間(およびほかの生物)の生命現象を左右している…。といっても、もちろんオカルト的な話などではない。科学、それも最先端科学の話だ。ATGCは、DNAを構成する4つの塩基のこと。Aはアデニン、Tはチミン、Gはグアニン、Cはシトシン。このうちAとT、GとCが対(塩基対)になり、二重らせん構造の段の部分を形成している。そして、その文字(実態である塩基)の配列が遺伝情報であり、生命現象を決定しているのだ。
人間の場合、全遺伝情報(ゲノム)を解読するヒトゲノム計画が一通り完了し、遺伝情報の全体像がぼんやりと浮かび上がりつつある。そして、ヒトゲノム計画を通じてもう1つ浮かび上がってきたものがある。それはバイオインフォマティクス。ゲノムのような膨大な生物情報をコンピュータを駆使して解析する新しい学問領域だ。そこで今回は、日本ではまだそれほど多くないバイオインフォマティクス専門の研究室である東京理科大の宮崎研究室の宮崎智教授を訪ね、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.2/全4回)

▲実験台も器具もない実験室

時代を先取りするかたちで2004年度から活動を始めた宮崎研究室だが、学内においてどのような役割を担おうとしているのかについてもうかがってみた。

「私の研究室では遺伝子配列の情報を扱っていますが、その情報を学内のさまざまな研究室でも活用できる基盤をつくりたいと考えています。もし、生物的な実験が必要になれば、ほかの研究室でやっていただき、共同研究を進めるかたちになります。

私の研究室には実験台はなく、あるのはコンピュータだけ。だから『ドライな研究室』といわれているのですが、実験では非常に効率が悪い部分をコンピュータを使って探り、知識抽出をします。逆に、実際に検証する場合は、ほかの研究室が実験をする。そういう棲み分けをしていくことになるでしょうね」

宮崎先生の具体的な研究テーマは、大きく見ると3つに分かれている。それは、(1)創薬情報ベースの研究開発、(2)分子情報ネットワークの解明、(3)創薬のためのゲノム情報解析手法の創造。どの研究も、まだ始まったばかりだが、それぞれのテーマについて具体的に教えていただくことにしよう。

国内外の研究機関が公開している
データベースを収集

▲データベースには膨大な量のゲノム情報が格納されている

創薬情報ベースの研究開発は、何をめざし、どのような研究を行っているのだろうか。

「創薬の研究を進めるためには、遺伝子の情報はもちろん、タンパク質の立体構造や発現に関するデータなどを網羅的に持っていることが必要になります。遺伝子やタンパク質の研究は、数多くの研究機関が取り組んでいますが、それらの研究プロジェクトはほとんど国の予算が付いているため、研究成果はWEB上で公開されています。そこで、まず、創薬に使えそうなデータベースをなるべくたくさん収集するようにしています」

このデータベースの収集には、研究室に所属する学部4年生も卒業研究の一環として加わっている。また、宮崎先生はデータベースを集めるだけでなく、さまざまなデータベースを共通のフォーマットに落とし込むシステムの開発にも取り組んでいる。

データの見せ方を共通化する
システムを開発中

「データベースは全部、データのかたちが違います。個々のプロジェクトが独自にデータをつくっているからです。たとえば、A研究所とB研究所では遺伝子データの見せ方がぜんぜん違う。それを見比べるには、それぞれのデータベースにある何万というデータの一つひとつを対応させないといけないのですが、人間の目でできるようなデータ量ではないんですね。そこで、コンピュータで共通のフォーマットに落とし込むシステムの開発を進めているのです。

いまは、まず個々のデータがどういうかたちで公開されているかをじっくり調べています。それを踏まえながら、汎用的な情報の見せ方ができるシステムを開発しているのです」

これができると、もとのデータの見せ方はバラバラでも、共通性のあるデータとして見ることができるようになる。このシステムは、宮崎先生が設計を担当し、プログラマーがプログラミングを担当するスタイルで開発を進めているところだ。

《つづく》

●次回は「ヒトゲノム解析の成果と新たな手法について」です。

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