研究室はオモシロイ

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第4回 Part.3

第4回 安価な生分解性プラスチックを畑のなかからつくり出す(3)
Part.3
ダイレクト発酵菌を使い 
栄養素は食品廃液を利用

東京農工大学大学院
工学教育府 応用化学専攻 国眼 孝雄研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちの身の回りにはプラスチック製品があふれている。家電、情報機器、文具事務用品、日用品、容器類などプラスチック製品に囲まれて生活しているといっても過言ではない。そのなかでも毎日のように、使っては捨てるというパターンを繰り返しているのがプラスチック容器類だ。現在はプラスチック容器類のリサイクル率が上がったとはいえ、分別されないままゴミとして捨てられ、最終処分場に埋められるものも多い。これでは、環境に負荷をかける一方だ。そのため、分解されて自然に返っていく生分解性プラスチックが注目を集めている。そこで今回は、生分解性プラスチックの研究に取り組んでいる東京農工大学の国眼孝雄先生の研究室を訪ね、お話をうかがった。(Part.3/全4回)

▲国眼 孝雄 教授

プロセスは、大きく5つに分かれる。それは、発酵プロセス、分離・精製・濃縮プロセス、合成プロセス、複合材料化プロセス、性能評価プロセスだ。それぞれについて、研究のポイントを教えていただくことにしよう。

「原料を集めて発酵させるのが発酵プロセスです。原料は、お話ししたようにキャッサバです。これを培地に入れて栄養素を加え、菌によって発酵させますが、我々はいくつかの新しい試みをしています。

その1つは、ストレプトコッカスボビスという乳酸発酵菌を使うようにしたことです。通常、発酵には2つの段階があります。まず、でんぷんを糖化する段階があり、酵素を入れる方法などによって、グルコースができるようにします。そのグルコースを菌が食べて発酵して乳酸ができるのです。ところが、この菌は自身が酵素を出して、グルコースよりも性質のいい糖をつくり、それを自身が食べて分泌として乳酸を出す。つまり、1段階で発酵までやってくれるダイレクト発酵菌なのです。

また、培地に入れる栄養素として、食品工場から出る魚の廃液を使っています。普通は産業廃棄物として捨てられるものですから、無料あるいは非常に安く手に入れることができます。それに、産業廃棄物を有効利用することは、環境への負荷を軽減することにもつながります」

無限発酵も可能なメンブレンバイオリアクター

さらに、国眼先生の研究室では、効率のいい発酵を実現するために連続発酵に取り組んでいる。なかでも、メンブレンバイオリアクターと呼ばれる発酵槽を開発して、高効率の発酵をめざしているのが特色だ。

「現在、発酵はほとんどが回分発酵という方法で行われています。1回だけ発酵させて生成物を採り、また最初から発酵させるという方法です。たとえば、酒はすべて回分発酵でつくられています。しかし、我々は、発酵効率を上げるために連続発酵の研究を進めているのです。いくつかの方法を試しているのですが、そのなかの1つにメンブレンバイオリアクターがあります。

実は、発酵で乳酸ができるということは我々にとってはいいことですが、菌の側からすると必ずしもいいことではないのです。できた乳酸のために失活して(活性を失って)しまうからです。これを生成物阻害といいます。自分がつくり出したものによって自身の働きが阻害されるのです。しかし、生成物を取り除いて、菌にとっていい環境にしてやれば、また活性を取り戻します。そのため、我々はメンブレンという膜、日本語でいうと限外ろ過膜を使って、この問題を解決しようと考えているのです。

限外ろ過膜は、小さな分子である乳酸は通しますが、原料や菌など大きなものは通しません。この膜で乳酸を取れば、生成物阻害を軽減して菌の活性を取り戻すことができるのです。しかも、菌は増殖しますから、うまく使えば無限に発酵させることもできます。だから、無限発酵槽あるいは永久発酵槽といっても過言ではありません。

ただ、死んでいく菌もありますから、それを生きている菌と分離する必要があります。それについては、生きている菌と死んでいる菌を分別する方法を考案して、特許を申請しています」

分離・精製・濃縮プロセスで
60%の乳酸水溶液をつくる

メンブレンバイオリアクターは、乳酸だけを集めることが可能なため、発酵の段階で分離・精製まで行えるというメリットもある。では、通常の分離・精製・濃縮プロセスについては、どのような研究を進めているのだろうか。

「一般的な回分方式だと、乳酸が5%ぐらいになると発酵が止まります。ブロスと呼ぶ発酵液のなかに乳酸が5%ぐらいある状態です。その乳酸をポリマーに合成するためには、60%ぐらいの乳酸水溶液をつくる必要があります。

しかし、ブロスのなかにはいろいろなものが混ざっていますから、乳酸だけを分離・精製して60%にまで濃縮するのは簡単なことではありません。全体のプロセスのなかでも、いちばんコストがかかる部分なのです。

分離・精製・濃縮の方法としては、一般的には蒸留があります。さまざまな物質の沸点の違いを利用して、目的の物質を取り出すわけです。我々も蒸留をやっていますが、蒸留にもいろいろな方法があるので、よりいい方法を探っているところです。蒸留以外にも、吸着、膜、電気透析などを用いた分離・精製・濃縮も研究しています。そのなかで、どの方法がいいのか、あるいはもっと新しい技術を開発できないかを検討しているのです」

《つづく》

●次回は最終回「自然に返すことが可能な生分解性プラスチックへの取り組み」です。

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