研究室はオモシロイ

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第4回 Part.2

第4回 安価な生分解性プラスチックを畑のなかからつくり出す(2)
Part.2
現在の生分解性プラスチックは
価格の高さがネック

東京農工大学大学院
工学教育府 応用化学専攻 国眼 孝雄研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちの身の回りにはプラスチック製品があふれている。家電、情報機器、文具事務用品、日用品、容器類などプラスチック製品に囲まれて生活しているといっても過言ではない。そのなかでも毎日のように、使っては捨てるというパターンを繰り返しているのがプラスチック容器類だ。現在はプラスチック容器類のリサイクル率が上がったとはいえ、分別されないままゴミとして捨てられ、最終処分場に埋められるものも多い。これでは、環境に負荷をかける一方だ。そのため、分解されて自然に返っていく生分解性プラスチックが注目を集めている。そこで今回は、生分解性プラスチックの研究に取り組んでいる東京農工大学の国眼孝雄先生の研究室を訪ね、お話をうかがった。(Part.2/全4回)

▲キャッサバから作成された生分解性プラスチック

生分解性プラスチックは、すでに製品化されている。しかし、一般のプラスチックに比べると普及はしていない。国眼先生は、クリアファイルを2種類取り出して、そのあたりの事情を説明してくれた。

「見た目は同じようなクリアファイルですが、ポリプロピレンからつくったものは113円と表示されています。それに対して生分解性プラスチックでつくったものは1029円と表示されています。どちらを買いますか? なかには環境に配慮して、高くても買うという人がいるかもしれませんが、普通は安いほうを買いますよね。だから普及しないのです」

このため国眼先生は、石油由来の製品と比べても競争力のある、安い生分解性プラスチック製品をつくりたいと考えている。

「バイオマスの欠点として、原料の希薄さがあります。大体、原料の10分の1ぐらいしか製品になりません。あとの9割はゴミとして処理しないといけないのです。しかも、石油だったら、油田からそのまま原油が出てきますが、バイオマスは広範囲に栽培して、それを集めてこないといけない。そして、蓄えておくとしても腐りやすい。要するに工業原料になりにくいのです。

たとえば、いま製品化されている生分解性プラスチックは、トウモロコシを原料としたポリ乳酸からつくっています。このポリ乳酸はほぼ100%、アメリカのカーギルという会社がつくっているものです。カーギルは、トウモロコシを特定の場所で大量生産してコストダウンを図っていますが、それでも、製品はいまお話ししたような値段になります。そのため我々は、安価な製品をつくるにはどうしたらいいかを考えながら研究を進めているのです」

「畑からプラスチック」をめざし
オンサイトプラントを計画

▲キャッサバから作成された生分解性プラスチック

安価な製品にするため、国眼先生は「キャッサバ」というイモを原料にして生分解性プラスチックをつくる研究を進めている。しかも、まったく新しい発想で。

「キャッサバは熱帯で採れるイモの一種です。インドネシアなど東南アジアでは副食のナンバーワンといってもいいのじゃないでしょうか。キャッサバから抽出されるタピオカでんぷんは、インスタントラーメンの原料としても使われています。

このキャッサバは、まず原料として値段が安いのが魅力です。それから、1年中栽培可能なので必要に応じて収穫できるというメリットもあります。ただ、水分が多いこともあって、1週間ぐらいで腐ってしまうという欠点もあります。

そこで我々は、オンサイトプラントという方式を考えています。原料を工場に運んでくるのではなく、畑のなかに農家の人でも扱えるような工場をつくるのです。そうすれば、キャッサバの欠点をなくすことができます。いわば『畑からプラスチック』をコンセプトにしているのです。

これは、インドネシアで準備を進めています。インドネシアにBPPT(技術評価応用庁)という官庁があって、日本でいうと経済産業省と環境省を一緒にしたようなところですが、そこの人たちと一緒に取り組んでいるのです。すでに現地では、15ヘクタールの土地を用意しています」

「畑からプラスチック」といっても、もちろんキャッサバから簡単にプラスチックがつくれるわけではなく、いくつものプロセスが必要だ。国眼先生の研究室では、複数のグループが各プロセスごとの研究を同時並行的に進めている。

《つづく》

●次回は「キャッサバがプラスチックに変わるまでのプロセスについて」です。

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