研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第5回 Part.2

第5回 
対象地域に継続的にかかわりながら人を中心に据えたまちづくりを研究(2)

Part.2
学生たちが地域の現状や問題点を調べ
まちづくりを考える

埼玉大学
教養学部 梶島 邦江研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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自分が生まれ育った地域、あるいは現在暮らしている地域には、どのような問題があり、どうすれば解決できるのか。そんなことを考える機会は意外に少ないかもしれない。とはいえ、それは行政や一部の専門家に任せておけばいいというものではなく、本来は私たち住民1人ひとりが考えなくてはならないことなのだろう。では、学問の立場からはどのようなアプローチがあり得るのだろうか?
今回は、地域が抱える問題やその解決策について実践的な研究を進めている埼玉大学教養学部・梶島邦江先生の研究室を訪ねて話をうかがってみた。(Part.2/全4回)

2003年度は、大久保地区のなかでも主に工場街を中心に歩いたそうだ。2004年度には、主に埼玉大学の北側にある農地を歩き、荒川と農業の関係や、農地のなかに遺っている古墳などについて調べた。このときも年度末には地域住民と一緒に対象地域を歩いている。

そして、2005年度には学部の学生にも自分たちの通うまちを考えてもらうために、半年間の授業でプロジェクトを進め、学生がまちづくりの提案をまとめることになった。

「学部の学生4~5人ずつをA班とB班に分け、前年度のプロジェクトに参加した大学院生が2人ずつサブリーダーとして加わって活動を進めました。A班もB班も、まちを歩きながら、それぞれの視点でこの地域の現状や問題点を調べ、よりよくするにはどうしたらいいかを考えていきました。その過程で、A班は『緑』に着目し、B班は『交通ルート』に着目したのですが、最終的には両班の考えを組み合わせて『桜360°!!』という提案をまとめました」

桜を生かしたまちづくりを提案し
そのいくつかが実現

この提案には、360度どこを見ても桜があるような魅力的な環境をつくりたいとの願いが込められている。実は、荒川の手前に鴨川という小さな川があり、その川沿いには桜並木があって、春には素晴らしい風景なのだという。また、桜は大学所在地であるさいたま市桜区のシンボルでもある。そこで、鴨川沿いの桜並木を延伸させたり、大学周辺を含めて各所に桜を植樹するなどして、桜を生かしたまちづくりをめざそうという提案になったのだ。

さらに、この提案には桜だけでなく、大学北側のケヤキ並木も重視して場所によってはケヤキを植えることや、草ぼうぼうになっている都市計画道路用地を花畑にすることなど「緑」を大切にする内容が盛り込まれている。

「桜区には、区民の代表で構成される区民会議というものがあるのですが、そこで学生たちの提案を発表させていただきました。そのとき、たまたま区長さんや都市計画担当の方も来ていらして、提案のいくつかが実現しました。道路用地はコスモス畑になりましたし、大学敷地を区切るフェンスを取り払って緑のプロムナードをつくろうという話が進んだりしています」

多様な資源がありながら過疎化も進む 
秩父地域の研究が進行中

2005年度から始まった「秩父地域プロジェクト」も興味深い研究だ。これは大学院の演習科目として取り組んでいるもので、梶島先生だけでなく複数の先生がかかわっている。

「1つの地域にもいろいろな要素がありますから、それを学際的に見ていこうというのが大学院文化科学研究科の特徴でもあります。そういう観点から、まちづくり論(梶島先生)、文化人類学、地理学、国際協力論を専門とする教員がかかわり、いろいろな分野の学生が集まって進めているのが秩父地域プロジェクトなのです」

秩父といえば、大学所在の埼玉県にあるというだけでなく、有名な『夜祭』をはじめ全国的にその名を知られている地域でもある。その秩父をなぜ研究対象にしたのだろうか?

「研究してみようと考えた理由の1つは、多様な文化的資源があることです。祭りなどの民俗も豊かですし、地形や地質も変化に富んでいます。産業を見ても、セメント業などが日本の近代化を支えてきた歴史があります。自然資源も豊富で、たとえば楓は日本でいちばん多くの種類が自生しています。そうした資源をまちづくりに生かせるのではないかと考えたのです。

2つ目の理由としては、そういう資源豊かな地でありながら人口減少が進み、過疎化が深刻になっていることがあります。秩父市の中心部はそうでもないのですが、山間の集落は高齢化率が5割を超えるところが軒並みで、このままでは10年以内になくなってしまう集落がいくつも出てくると懸念されているのです。

こうした状況を踏まえながら、集落の存続も含めて秩父地域の今後を探るのがプロジェクトの目的です」

さまざまな産業を結びつけるため
「観光」の役割に着目

2005年度は、6人の大学院生がプロジェクトに参加した。それぞれが関心を持ったテーマを1年かけて追い続けることになったが、共通する大きなテーマは「観光」だった。

「秩父地域が今後、農業だけ、あるいは鉱工業だけで成り立つかというと、それぞれ単独では難しい面があります。したがって、いくつかの産業を複合化していくことが必要だと思われます。そして、異なる産業を結びつける「のり」の役割を果たすのが『観光』ではないか、と考えたのです。ドラスティックな変化というのは住民の方たちも望まないでしょうし、現実問題として難しいので、いまあるものをうまく結びつけていくことが大切ではないでしょうか」

こうした方向性のもと大学院生は、観光の問題点、産業遺産の活用、秩父札所めぐり、観光客の属性や交通ルート、秩父ミューズパークという広域公園施設など個別のテーマごとに調査研究を進め『秩父地域おこしプロジェクト』と題する報告書をまとめた。

《つづく》

●次回は「山地景観を生かすエコミュージアムについて」です。

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