第6回 Part.2

化石を通じて未来の環境変動を予測(2)


早稲田大学 教育学部地球科学教室
平野 弘道 研究室
※部署名、役職名、研究内容などは取材当時のものです
更新::2007/06/11

約1億年前の白亜紀に繰り返し起きた生物絶滅

約1億年前の中規模な生物絶滅。それはどのようなもので、なぜ起きたのか。概要を教えていただくことにしよう。

「まず、白亜紀は非常に温暖で、特別な時代だったということが前提になります。その白亜紀のなかで約1億2,000万年前から9,400万年前に何回も絶滅が起きているのです。

たとえば、浮遊性有孔虫という1ミリに満たない生物がいます。これは、1億2,000万年前に種のうちの27%が絶滅し、その後も69%、29%、26%、20%など何回も絶滅を繰り返しています。ガラスと同じ珪酸塩の殻を持った放散虫というプランクトンも41%、42%、28%、58%というように何回も絶滅しています。

また、石灰質の殻を持った0.03ミリのプランクトンで石灰質ナノ化石というものがあります。ドーバー海峡のイギリス側、フランス側などに真っ白な崖がありますが、あれは石灰質ナノ化石が数百メートルも積もってできたものです。その石灰質ナノ化石の研究でも、7%、9%といった絶滅が起きていることが明らかにされています」

生物絶滅の要因となった
海洋無酸素事変

こうした絶滅は、OAE(オーシャニック・アナキシック・イベント)、日本語で『海洋無酸素事変』といわれる出来事が深く関係しているそうだ。海洋無酸素事変が認識されたのは1976年。地球科学の長い歴史のなかでは、比較的最近のことといえるかもしれない。

「海洋無酸素事変は、大西洋や太平洋の海底の地層に黒い泥が堆積していることが発見されたことによって認識されるようになりました。その泥は、酸素を嫌う嫌気性の生物の代謝物で黒くなっていたのです」

なぜ、そういうことが起こったのかを平野先生は順を追って説明してくださった。そのうち、海洋に十分な酸素が保たれるメカニズムについてまとめると次のようになる。

現在、地球は温暖化に向かっているが、これぐらいの状態だと北極や南極で海水が凍る。海水が凍るときには、海水中に含まれる塩分を放出して純粋な水だけで固まるので、まわりの海水は塩分濃度が高くなる。すると、海水は重くなって沈んでいくが、海の表面では空気によく触れていたため、沈む海水は酸素をたくさん含んでいる。

たとえば、グリーンランド沖あたりの北極海で海水が沈むと、その海水は大西洋の底を南に向かってずっと移動していく。一方、赤道域で太陽輻射によって暖められた海水は、海流が生じて北に向かって流れていく。いわばベルトコンベアのようなものだ。

海の底では、アフリカ南端にまで達した海水がインド洋に回る。そして、南極海からきた同様の海水と合流して太平洋に出る。さらに、太平洋を時計回りに移動して南アメリカの南端から再び大西洋に入り、北に戻っていく。

こうして地球を1周するのに約1,000年かかる。つまり、1,000年に1回のサイクルで海洋が攪拌されているわけだ。これを『海洋大循環』という。

温暖化が海洋の無酸素状態を招き
多くの生物が死滅の危機に

「海洋大循環があれば、海底は常に酸素を含んだ新鮮な海水が満ちています。ところが、気温が上昇して北極や南極の氷が溶け、新たには凍らなくなると海水が沈まず、海底に新鮮な海水がこなくなります。

海底は、マリンスノーといわれるように、上のほうから浮遊性生物や遊泳生物の死骸が雪のように降ってきています。それらを分解するために酸素が消費されるのですが、新しい酸素を含んだ海水がこなくなると、酸素が減る貧酸素の状態になり、やがて無酸素の状態になります。

そして、その状態が続くと、嫌気性の細菌が増えてきます。嫌気性の細菌は海中にある硫酸塩をエネルギー源にして硫化水素をつくります。硫化水素は酸素呼吸をしている生物にとって有毒ですから、多くの生物は死んでしまいます。これが海洋無酸素事変です」

前述した浮遊性有孔虫などの絶滅が、ほぼ海洋無酸素事変のときに起きていることは世界レベルで詳細に分析されている。また、平野先生が作成した日本産白亜紀アンモナイトの種のデータベース(約800種。世界全体では1万種以上といわれている)からも、数回の海洋無酸素事変のときにアンモナイトの種の数が大きく減って絶滅が起きていることが明らかになっている。

《つづく》

●次回は「地質調査による地質図作成と化石採集について」です。

▲平野 弘道 教授

 

Lineup

第15回
工学院大学
工学部電気システム工学科

第14回
日本女子大学
家政学部被服学科

第13回
慶應義塾大学 経済学部

第12回
成蹊大学
理工学部情報科学科

第11回
早稲田大学
スポーツ科学学術院

第10回
首都大学東京大学院
都市環境科学研究科

第9回
明治大学
情報コミュニケーション学部

第8回
実践女子大学 生活科学部

第7回
東京工業大学大学院
理工学研究科

第6回
早稲田大学
教育学部地球科学教室

第5回
埼玉大学 教養学部

第4回
東京農工大学大学院
工学教育府応用化学専攻

第3回
青山学院大学
文学部日本文学科

第2回
東京理科大学
薬学部生命創薬科学科

第1回
東京大学大学院
情報理工学系研究科