研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第9回 Part.1

第9回 「超能力」を題材に心の不思議に迫る(1)
Part.1
『超心理学』とはどのようなものか

明治大学
情報コミュニケーション学部 石川 幹人研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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これだけ科学が発達しても(あるいは発達したからこそ)科学の光が届かない未知なるものへの関心(あるいは期待)を抱く人は少なくない。これは一般社会での話だが、学問の世界でも、通常の科学では説明できない現象を研究する超心理学というジャンルがある。
今回は、情報学を専門としながら超心理学にかかわる研究にも取り組んでいる明治大学・情報コミュニケーション学部の石川幹人先生の研究室を訪ねた。(Part.1/全4回)

100年以上の歴史がある
超心理学の研究

▲石川 幹人 教授

まず、超心理学とは何か、その概要から教えていただくことにしよう。

「超心理学は、通常の物理学では説明できないような人間の能力、わかりやすくいうと超能力と呼ばれているものを研究対象にしています。その源は、19世紀後半に欧米で始まった心霊研究にあります。当時は一般的に、霊媒といわれる人を通じて人間の死後の魂と交信できると考えられていました。その霊媒がテレパシーや念力など超能力のような力を発揮することがあると伝えられるようになり、そういう現象を科学的に研究するための学術団体が1880年頃からイギリス、アメリカ、フランスなどで次々に誕生したのです。

その後、1930年代にアメリカのデューク大学のJ・B・ライン博士が5種類の図柄を印刷したESP(後述)カードを開発して実験の成果を上げるなど、科学的な研究方法が確立されていったのです」

人工知能研究の過程で
人間特有の心の働きに着目

石川先生はもともと情報学が専門だが、なぜ超心理学に関心を持つようになったのだろうか?

「私は人工知能の研究をしていたのですが、コンピュータに人間のような知能を持たせることには壁があると感じていました。それは機械では表現できない人間特有の心の働きがあるからではないかと考え、その問題を追求していく1つのヒントとして超心理学に関心を持ったのです。

そして2002年に、明治大学の在外研究制度によって、先程お話ししたデューク大学に研究員として1年間滞在し、超心理学の本格的な研究に触れました。その研究は、日本にいたときに考えていたものよりも、ずっと深い水準にまで発展していて驚きの連続でした。それで日本に帰ってから、私なりの立場で超心理学の研究に取り組むことにしたのです」

超心理学研究を通じて
科学のあり方を問い直す

石川先生は2003年の春に「メタ超心理学研究室」を立ち上げた。「メタ」という言葉は、何らかの対象全体を大きくとらえるような意味で使われることが多いが、石川先生は「超心理学の研究」について研究する、というスタンスを示すために、この名称を付けた。

研究テーマも、超能力の実証実験、超能力や特異現象などの事例調査、意識調査、文献調査をはじめ数多く設定されているが、そうした各種のテーマに取り組んでいくことを通じて科学のあり方を見直すことが、この研究の大きな目的になっている。

「科学の研究は、繰り返し実験して再現性があるものを理論によって説明することで進んでいきます。これは自然科学のことですが、たしかに自然科学の世界では、そうした方法によって研究成果が上がり、ある程度うまくいっています。ただ、その方法を人間や社会の研究にそのまま適用する動きがあり、疑問を感じています。

というのは、自然科学の研究は主にモノを対象にしていますから、必ずしも複雑ではない面もあります。同じような実験をすれば同じような結果が得られる。そういう性格があるのです。しかし、たとえば人間の心理は気持ちの問題ですから、自分の気持ち、相手の気持ち、かかわる人の気持ちなどが複雑に絡んできて、実験をしても再現が難しかったり、答えが1つではなかったりということになります。

つまり、モノでうまくいった方法を人間や社会の研究に持ち込んでも、なかなかうまくいかないということが、現在の科学の悩ましい問題になりつつあるのです。

そういう問題を整理する題材として超心理学の研究を位置付け、モノと人間との違いを探ることなどを通して、科学のあり方を考え直していきたいと思っています」

《つづく》

●次回は「超心理学の具体的な研究対象について」です。

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