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第11回 Part.4

第11回 スポーツビジネスのあり方を科学的に考察(4)
Part.4
スポーツ消費者と
「ファンビジネス成功」の方程式

早稲田大学
スポーツ科学学術院 原田 宗彦研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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開幕まではスポーツ以外の問題がクローズアップされがちだった北京オリンピック。しかし、いざ始まると世界最大のスポーツの祭典にふさわしく、トップアスリートたちの熱戦が興奮や感動を呼び起こす大会となった。同時に、開会式や閉会式の大がかりなアトラクション、多額の放映権料を支払っている国に合わせた決勝時間の設定など、オリンピックが巨大なスポーツビジネスの側面を持っていることも感じさせる大会だった。そこで今回は、スポーツビジネスの研究に取り組んでいる早稲田大学スポーツ科学学術院・原田宗彦先生の研究室を訪ね、スポーツが持つビジネスの側面についてお話を伺うことにした。(Part.4/全5回)

前回は、チーム経営の厳しさは分かっていても、各地域からJリーグ入りをめざすチームが次々に出ており、各チームがそれぞれの地域のファンを獲得していくことで地元の活性化につながるという話をした。引き続き、原田先生に伺ってみよう。

5つのポイントから成り立つ
ファンビジネス成功の方程式

▲原田 宗彦 教授

原田先生は、長年の研究を通じて、スポーツチームがファンを獲得し事業化を成功させるための方法論を導き出した。それが『ファンビジネス成功の方程式』だ。

「方程式といっても、単純にすべてのチームにあてはまるわけではありません。実際には地域ごと、チームごとに方程式があると思いますが、それらを普遍化したモデルを示したものです。方程式のポイントは5つあります。

1つ目は、商品アイデンティティです。スポーツチームが提供する商品はゲーム自体だけではありません。ゲームを観戦することによって得られる、楽しさ、ファン同士の交流、興奮、感動といった『経験』こそが商品の本質であり、そこを理解することが必要です。

2つ目は、地域密着化とステークホルダーです。チームが地域に密着することによって、ファンのロイヤリティ(チームへの忠誠心)を育てるとともに、自治体や地元企業などをステークホルダー(利害関係者)として巻き込んでいくことが大事です。

3つ目は、リーダーシップです。チームを運営し事業として発展させていくためには、強いリーダーシップが必要です。その役割を担うのがGM(ゼネラルマネジャー)で、GMはチーム経営とチームづくりの両面で舵取りをしていくことが求められます。

4つ目は、トポスと舞台のクオリティです。トポスは場所を表す言葉で、愛着を感じる場所をトポフィリア(フィリアは愛を表す言葉)といいますが、スタジアムをファンが愛着を持つ場所にすることが必要です。さらに、そこが美しく快適で機能性にも富んでいるなど、舞台のクオリティが高いことも大切です。

5つ目は、ブランディングです。これはチームのブランド価値を高めていく活動のことで、ファンを増やしたり、スポンサーから資金を調達したりするうえで非常に重要です。

これらのポイントに、各地域やチームごとに必要となるものを加えて創意工夫することで、ファンビジネス成功の道筋が見えてくるのではないかと考えているのです」

従来の理論ではとらえきれない
スポーツ消費者の意識と行動

ミクロの視点では、「スポーツ消費者」の意識や行動を明らかにすることが中心的なテーマになっているそうだ。スポーツ消費者とは、スポーツを観戦するファン、フィットネスクラブの会員など「スポーツ自体を消費する人」のことだというが、一般商品の消費者とは異なる特徴があるのだろうか。

「スポーツ消費者の意識や行動は、基本的には一般商品の消費者と共通項が多くなります。ただ、スポーツ消費者にはやや特殊な面もあります。たとえば、予測できないものに対して支出をします。クラシックコンサートなら、最高のパフォーマンスを期待できることはチケットを購入する時点で分かっています。ところが、スポーツの試合はどうなるか分からない。まったく予測がつかないけれど、その反面、滅茶苦茶エキサイティングできるかもしれない。

あるいは、一般商品なら品質が悪ければ、再びその商品を買うことはないでしょう。しかし、スポーツチームのファンの場合、試合のパフォーマンスが悪くても、チームがボロ負けしても、何度でもスタジアムに足を運ぶ人がたくさんいます。

このように、スポーツ消費者の意識や行動は、従来の消費者理論では説明できない部分もあるのが特徴です。そうした非合理的な部分も含めてスポーツ消費者の意識や行動を明らかにしていくことが、スポーツマーケティングの重要なテーマになります」

《つづく》

●次回は最終回、「ファン意識や行動を解明し新たな研究を開始する」です。

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