研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第12回 Part.5

第12回 対話型コンピュータの実現をめざす(5)
Part.5
ユーザーに街を案内する
ガイドエージェント

成蹊大学
理工学部情報科学科 中野 有紀子研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:
 更新:

私たちの生活や仕事にはコンピュータが欠かせなくなってきた。しかし、あらためて考えてみると、コンピュータの操作にキーボードやマウスがほぼ必須なのは、いつまで経っても変わらない。近未来を舞台にした映画や小説のように、人間が話しかけるとコンピュータが返事をしてくれるようになる時代はまだ遠いのだろうか。今回は、アニメーションキャラクターなどを活用した、人間とコンピュータのより自然なインタラクション(相互のやりとり)の研究をしている成蹊大学理工学部情報科学科の中野有紀子先生の研究室を訪ねてみた。(Part.5/全5回)

最終回となる今回は「没入型環境におけるガイドエージェント(*1)情報科学、とくに人工知能の分野でよく使われる言葉。この言葉自体はもともと「代理人」とか「動作主」といった意味がある。」について、どのようなものなのか、具体的な内容を教えていただこう。

没入型環境というのは、大きなスクリーンなどを使って、映っている世界にユーザーが入り込んでいくような環境のことだ。没入型環境におけるガイドエージェントはどのようなものが研究されているのだろうか。

これは、京都大学、クロアチアのザグレブ大学との共同研究で、クロアチアの古都・ドブロヴニクを案内するエージェントを開発している。

「毎年、インタフェースの国際的なワークショップ(研究のための作業集会)があり、2年前はクロアチアのドブロヴニクで開催されました。それに向けて、以前からつながりのあった京都大学の研究室とザグレブ大学の研究室、そして私の研究室が役割分担しながらガイドエージェントをつくるプロジェクトに取り組んだのです」

ワークショップは1か月間におよんだ。中野先生は1か月も大学を空けることはできないため参加期間は1週間ぐらいだったが、学生たちは1か月間、当地の大学の施設を使って集中的にシステムの作成を進めた。

「京都大学はシステム全体の設計と統合、ザグレブ大学はアニメーション、私の研究室はキャラクターを動かすメカニズムをそれぞれ担当しました。ワークショップに向けて、各研究室がパーツごとに事前準備をしておき、ワークショップの1か月間でパーツを統合したのです。音声認識の入力部や、出力決定機構からアニメーションシステムへの命令の受け渡しなど複数のパーツをつなぐ作業にはかなり時間がかかり大変でした」

設定したセリフを認識して
適切な会話や動作を生成

▲メインストリートに立つガイドエージェント

こうして、エージェントがユーザーとやりとりしながら、ドブロヴニクの代表的な名所を案内するシステムができあがった。

エージェントは最初、ドブロヴニクのメインストリートを背景に立っている。そして、エージェントが自己紹介と街の紹介をしたあと、たとえばユーザーが「修道院にいきたいです」と話すと、エージェントが歩き出して修道院の画面に切り替わり、エージェントが「この修道院は14世紀につくられたものです」といった案内をしてくれる。

▲修道院前を歩くガイドエージェント

「このシステムは、ユーザーが話したことを音声認識で理解して、エージェントが適切な会話や動作をするように制御しています。ただ、現段階ではユーザーが話せるセリフは予め決めてあります。たとえば『噴水の水は飲めますか』というセリフを登録しておくのです。こういうセリフを認識するのは難しいようですが、実はセリフが長いほど情報量が多いので、どのセリフか認識するヒット率が高くなるのです」

▲噴水を案内するガイドエージェント

ガイドエージェントは、観光地の案内だけでなく、キャンパスや美術館などの案内にも適している、と中野先生は指摘する。今後は、よりスムーズにキャラクターを動かしたり、ユーザーの言葉が多少入れ替わっても音声認識できるようにしたりすることなどを含めて、研究を深めていくことになる。

リビングのソファに座ると、テレビには人間の言葉や仕草を理解しインタラクションが可能なエージェントが映っていて、その隣には同様の機能を備えたロボットがいる。中野先生が描く未来像の1つだ。そうした未来を実現するために、研究がさらに進展していくことを期待したい。

中野先生から進路選びのアドバイス
『情報科学』を学びたい高校生へ

情報科学は、コンピュータについて学ぶ分野というイメージがあると思います。でも、実際はそれだけではありません。情報科学は、コンピュータについての深い知識をベースに「情報」を世の中のために役立てていくことをめざしているのです。

とくにいまは「情報」が世の中のあらゆる領域にかかわるようになっています。そのため、「情報」をどう扱ったら人間の生活がゆたかになるのか、これまでにないサービスが可能になるのか、新しい発見ができるのかといった視点がとても重要になっています。

といっても難しく考えることはありません。たとえば、身近な問題から「情報」の活かし方を考えることが、将来やりたいテーマを見つけることにつながっていくと思います。

学校を選ぶときは、コンピュータについての専門性を深めながら広い視野で学べるようなところを探してみるといいのではないでしょうか。情報科学を学べる学校は多いので、各校の得意分野や、研究室の内容などまで調べてみることも大切ですね。

【用語解説】
*1 エージェント:情報科学、とくに人工知能の分野でよく使われる言葉。この言葉自体はもともと「代理人」とか「動作主」といった意味がある。

中野 有紀子(なかの ゆきこ)
1965年、奈良県生まれ。1988年、東京女子大学文理学部心理学科卒業。 1990年、東京大学大学院教育学研究科修士課程教育心理学専攻修了。同年、日本電信電話入社、情報通信網研究所勤務。2000年、退社。 同年、マサチューセッツ工科大学大学院入学。2002年、修了。 同年、科学技術振興機構・社会技術研究システム・会話型知識プロセス研究グループ専門研究員。 2005年、東京農工大学大学院工学府情報工学専攻ユビキタス&ユニバーサル情報環境専修特任助教授。2008年から現職。博士(情報理工学)。。

新着記事 New Articles