第20回 Part.3

持続可能な食料生産への道を開く(3)
〜リーダー養成から創薬まで〜


東京農工大学 農学部
千葉 一裕 教授
※部署名、役職名、研究内容などは取材当時のものです
更新::2013/11/18
第3回
生物有機化学研究室では、創薬のための研究を重ねる

東京農工大学では、これからの食料生産をリードできる人材を養成する大学院で新たなプログラムを開始した。プログラムコーディネーターの千葉一裕教授を訪ね、話を伺っている。

新しい薬をつくり出すための
化学合成を研究

ここからは千葉先生ご自身の研究について教えていただくことにしよう。先生の研究室は「生物有機化学研究室」という名称だが、どのような研究をしているのだろうか。

「私の研究室では、有用な物質を化学合成する方法の研究とその方法を使って実際に有用な物質を合成する研究をしています。

この研究の目的は、わかりやすくいうと、新たな医薬品をつくり出すことです。たとえば、抗がん剤、抗マラリア剤、鎮痛剤などですね。これらの薬はまだ理想的なものがないのです。

薬は、どんどん新しいものを探していかないといけないのですが、人間の身体にフィットする分子であることが求められます。そのため、人間の身体が持っているタンパク質、ペプチド、糖質などの類似物質を薬にすることがいま大きなテーマになっているのです」

新しいタイプの薬ということだが、化学合成によってこうした薬をつくるのは簡単ではないそうだ。

「これまでに人類がつくってきた薬は割とシンプルな分子構造で化学合成もそんなに難しくないものがほとんどです。その反面、副作用が出たり、難しい病気には効きにくいという問題もあります。

生体分子であるタンパク質、ペプチドなどの類似物質を薬として実用化できると、これまで効かなかった病気にも効く可能性があります。ただ、分子構造が非常に複雑なので合成が難しい。そこで、こうした複雑な構造を持つ物質を合成するための方法を探究するとともに、新しい薬の実用化につなげていくことをめざしているのです」

溶液のなかから必要な物質を
簡単に取り出す技術が必要

千葉先生は、化学合成の難しさについて、身近な例えを交えながら次のように説明する。

「たとえば、カレーをつくるときには、ルーをつくって、野菜を入れてというようにいくつかのステップを踏みますね。こうしたステップが必要なのは化学反応も同じで、10段階ぐらいでできるものもあれば100段階ぐらい必要なものもあります。10段階ぐらいまでのものなら工場でも何とかつくれますが、100段階になるとどうか。

理科の実験をイメージしてみてください。ビーカーの水に何かを入れて、かき混ぜて濾過する。これを100回やるのはすごく大変だということがおわかりいただけるのではないでしょうか。

濾過するというのは溶液のなかからほしいものだけを取り出すということですが、それが難しい。

砂糖水のなかから砂糖だけ取り出してください、といわれたらどうしますか? すぐには思いつかないですよね。考えれば、煮詰めればいいとか、アルコールを入れれば沈殿するのではないかと思いつくかもしれませんが、実際にやるのはなかなか大変です。しかも、それを5分でやってくださいといわれたら、まず不可能です」

千葉先生は、この不可能と思われることを可能にする方法を探り、有用な物質をつくり出すことをめざしているのだ。

「溶液のなかからほしいものだけをパッと取り出す。そして次の段階の反応をさせて、またパッと取り出す。それができれば化学反応の効率は格段に上がるので、100段階でも大きな設備なしに実現できるようになります。ほしいものだけ取り出すということは純度が高いということなので精製の手間も少なくて済みます。

量的にも、1リットルの液体でできるなら、それを100リットルにすれば大量につくれるようになります。

大量につくれるというのもすごく大事なことなのです。インフルエンザのような感染症が広まって薬が大量に必要になることがありますが、そういう事態にも対応できるようになるからです」

《つづく》

●次回は、第4回『さまざまな薬への応用が期待される研究成果』です

■東京農工大学 農学部

■東京農工大学

■グリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院

▲千葉 一裕教授

 

Lineup

第15回
工学院大学
工学部電気システム工学科

第14回
日本女子大学
家政学部被服学科

第13回
慶應義塾大学 経済学部

第12回
成蹊大学
理工学部情報科学科

第11回
早稲田大学
スポーツ科学学術院

第10回
首都大学東京大学院
都市環境科学研究科

第9回
明治大学
情報コミュニケーション学部

第8回
実践女子大学 生活科学部

第7回
東京工業大学大学院
理工学研究科

第6回
早稲田大学
教育学部地球科学教室

第5回
埼玉大学 教養学部

第4回
東京農工大学大学院
工学教育府応用化学専攻

第3回
青山学院大学
文学部日本文学科

第2回
東京理科大学
薬学部生命創薬科学科

第1回
東京大学大学院
情報理工学系研究科