研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第20回 Part.2

第20回 
持続可能な食料生産への道を開く ~リーダー養成から創薬まで~(2)

Part.2
専門領域にとどまらず、
5年間かけ世界で活躍できる人材に

東京農工大学
農学部 千葉 一裕教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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食料は私たちが生きていくうえで必要不可欠なものだ。幸い、日本では食料に困ることはないが、世界に目を転じると何億もの人が食料不足で苦しんでいるといわれる。地球規模で考えると、人類の食生活は危ういバランスのうえに成り立っているのかもしれない。今回は、これからの食料生産をリードできる人材を養成するために大学院で新たなプログラムを開始した東京農工大学を訪ね、プログラムコーディネーターの千葉一裕教授に、プログラムの目的や内容を中心に、千葉先生ご自身の研究内容も含めて話を伺った。(Part.2/全4回)

5年一貫の大学院教育で 
より体系的な学びを実現

▲千葉 一裕教授

東京農工大学では、これからの食料生産をリードできる人材を養成する大学院で新たなプログラムを開始した。プログラムコーディネーターの千葉一裕教授を訪ね、話を伺っている。

次に、プログラムの内容や特色について教えていただくことにしよう。

「このプログラムは5年一貫教育が特色の1つです。従来の修士課程(博士前期課程)2年、博士課程(博士後期課程)3年という区分をしないで、5年間を通してより体系的に学ぶことができるようにしています。

現在は、大学院の既存の専攻で学びながら、プログラムの科目をプラスアルファで履修するかたちなので、学生さんはやるべきことが多いですが、得るものも多いと思います」

学ぶ内容も多岐にわたっている。専門科目だけみても、農学と工学を横断する科目が幅広く設定されている。これは前述した、食料生産を幅広い視点で追求できるリーダーを育てるという方針に基づいたものだ。こうした学びを可能にするため、多彩な教員をそろえている。

「本学大学院の連合農学研究科、生物システム応用科学府、工学府などから選出した32人の教員がこのプログラムを担当しています。さらに、外部の企業、研究機関、海外の大学などから18人の方に教員として参加していただいています」

専門領域の科目以外に、文化、芸術、歴史、経済、語学などをしっかり学ぶことも重視している。

「たとえば、化学だけ詳しく知っていても、それでは社会のリーダーにはなれません。文化、伝統、歴史などを知っていて、芸術も鑑賞できて、世界の人たちとそういったテーマについても話し合える。そういう科学者を育てたいと考えているのです。今後は、そういったジャンルの講師を増やしたり、著名人を招いて学生がふれあう機会を設けたりしたいと思っています」

ローテーション制を導入して
複数の研究室で学ぶ

学び方にもさまざまな工夫が凝らされている。その1つが研究室ローテーションだ。

「研究室ローテーションはプログラムの特色の1つです。これは前半の2年間に、少なくとも3つの研究室をローテーションで回るものです。通常の大学院では、学生は特定の研究室に所属しますが、いろいろな先生、いろいろな専門分野に触れて、ものの考え方や取り組み方の違いなどを知ってもらいたいと考えたのです。後半の3年間は、ローテーションした研究室の1つに所属して、しっかりと博士論文に取り組んでもらいます」

ローテーションの対象となる研究室は学内にとどまらない。

「すでに上智大学大学院の地球環境科学研究科と正式に連携していて、そちらの研究室のゼミを受けることもできます。今後は、理科系の大学院にはないような研究室で学べるように、連携先をさらに増やしていきたいと思っています」

さらに、このプログラムには海外留学とインターンシップも組み込まれている。

「世界で活躍できる人材の養成をめざしているので、少なくとも半年ぐらいは海外の大学などに留学して学んできてもらいます。インターンシップでは企業の活動を体験し、企業との共同研究に参画することもあると思います」

26年度は外部からも募集し
27年度から専攻設置を予定

プログラムは始まったばかりだが、ステップを踏んで専攻に移行していく。

「プログラムの定員は20名で、25年度はプログラムの採択から時間がなかったため本学の学部から大学院に進む人を対象に募集をして選考しました。26年度は広く外部の方も対象に募集します。

そして、27年度を目標に新しい専攻を設置したいと考えています。募集もその専攻で行います。5年一貫課程ですから最終的には総数100名の専攻になります。新しい専攻をつくるのはかなり大きな事業なので、しっかり準備を進めてきたいと思います」

千葉先生は、このプログラム(専攻)を通じて新しい大学院教育のあり方を提示していきたいともいう。

「これからの大学院では、このプログラムのような考え方に基づく教育が重要になってくると思います。

複合的な領域を学んだり、いわゆるリベラルアーツ的な科目も広く学ぶので、最先端の研究者を育てるという意味では回り道をしているように思われるかもしれません。しかし、何か1つのことだけをやっていたのでは本当の最先端の研究はできないのです。

いろいろな領域の考え方を知ったり、さまざまな問題を発見したり、日本だけでなく世界に人的なネットワークを築いたりできる人が最先端を歩んでいくのではないでしょうか。

新しい専攻を学内でしっかり定着させながら、そういう考え方を外部にも発信していきたいと考えています」

《つづく》

●次回は、第3回『生物有機化学研究室では、創薬のための研究を重ねる』です

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