第6回 Part.4

化石を通じて未来の環境変動を予測(4)


早稲田大学 教育学部地球科学教室
平野 弘道 研究室
※部署名、役職名、研究内容などは取材当時のものです
更新::2007/06/25

質量の異なる炭素の割合から
時代を決めることが可能

研究対象の1つになっている炭素同位体。これはどのようなもので、どのような研究を進めているのかについても話をうかがってみた。

「二酸化炭素の炭素(C)には、質量が12の炭素と13の炭素がありますが、その割合は時代によって変動していることが明らかになっています。したがって、採集した試料に含まれる12Cと13Cの割合を分析し炭素同位体比を求めることによって時代を決めることができるのです。

炭素同位体比の変動は、植物の光合成に関係があります。植物は、光合成するときに12Cから成る二酸化炭素をたくさん吸収する性質があります。海の植物プランクトンも光合成をしていますから、12Cをたくさん吸収して海底に沈みます。通常は、海底の酸素で植物プランクトンが分解されて12Cは海中から大気中へと戻っていくので、長い目で見ると炭素同位体比は一定に保たれます。

しかし、海洋無酸素事変が起こると、沈んだ植物プランクトンが分解されなくなります。そのため、大気中から12Cが減って割合の変動が起こるのです」

中国黒竜江省の調査で
地層の時代を明らかに

炭素同位体比の研究は国内でも行っているが、ここ数年、中国が主な研究フィールドになっている。

「中国では、羽の生えた恐竜などさまざまな化石が出ていますが、その時代を決めるのが難しいのです。というのも、中国の地層は陸成層といって、陸上の河川や湖に堆積した地層なのです。時代を決める『標準化石』といわれるものは海にいた生物の化石ですから、中国でいくら化石が出てきても時代がわからない。

それで1999年に中国の研究者から、私のやり方で地層の時代を調べてもらいたいという依頼があったのです。それ以来、毎年のように卒論生や大学院生と一緒に中国にいって調査をしています。場所は、黒竜江省、河北省、遼寧省、吉林省などです。

研究は、地層から採集した植物の破片を分析して炭素同位体比を求める方法を採っています。ただ、いい試料が出にくいという事情もあって、なかなか難しい。それでも、ここ3年ぐらいの黒竜江省の調査で一定の成果を上げることができました。ある重要な地層の炭素同位体比の変動パターンが、白亜紀に数回あった海洋無酸素事変のうちの1つとほぼ一致することを明らかにしたのです」

この研究成果は昨年、北京で開かれた国際古生物学会および福岡で開かれた国際堆積学会で発表している。

日本での海洋無酸素事変の有無や程度を解明

平野先生の研究室では、古生物学を通じた環境変動に関する研究を10数年間継続しているが、国内でもさまざまな成果を上げている。

たとえば、海洋無酸素事変が日本、つまり北大西洋西部におよんだかどうかは世界中の誰も明らかにしていなかったが、平野先生の研究室では、化石試料や炭素同位体比のデータによって、日本にも影響があったことを突きとめている。

さらに、数回あった海洋無酸素事変のうち約9,400万年前に起きたものは、ドーバー海峡周辺よりも日本のほうが程度が穏やかであったことも明らかにしている。

平野先生は、こうした研究をさらに推し進めて、温暖化と地球環境変動の関係に迫っていく考えだ。

「どのくらいまで気温が上昇したら、大きな環境変動の前兆として、どんな現象が起きるのか。そういうことを提示できるようになりたいですね。もちろん私たちだけでできることではありませんから、国際共同研究なども含めた幅広いアプローチを重視しながら研究を進めていきたいと思っています」

平野 弘道
(ひらの ひろみち)
1945年生まれ。横浜国立大学教育学部卒業。九州大学大学院理学研究科修了。理学博士。2001年〜2003年に日本古生物学会会長を務める。主な著書に『絶滅古生物学』『恐龍はなぜ滅んだか』『繰り返す大量絶滅』『古生物学からみた進化(講座 進化3)』(分担執筆)『地球環境と生命史(古生物の科学5)』(分担執筆)などがある。

 

Lineup

第15回
工学院大学
工学部電気システム工学科

第14回
日本女子大学
家政学部被服学科

第13回
慶應義塾大学 経済学部

第12回
成蹊大学
理工学部情報科学科

第11回
早稲田大学
スポーツ科学学術院

第10回
首都大学東京大学院
都市環境科学研究科

第9回
明治大学
情報コミュニケーション学部

第8回
実践女子大学 生活科学部

第7回
東京工業大学大学院
理工学研究科

第6回
早稲田大学
教育学部地球科学教室

第5回
埼玉大学 教養学部

第4回
東京農工大学大学院
工学教育府応用化学専攻

第3回
青山学院大学
文学部日本文学科

第2回
東京理科大学
薬学部生命創薬科学科

第1回
東京大学大学院
情報理工学系研究科