若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
2-22-2
仕事選び
~働く前に考え過ぎない~
工藤 啓(くどう・けい)
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いま、若者は働くことの意味を一生懸命に探しています。生活費を稼ぐこともありますが、それ以上に、自分の仕事が自分にとって、お客様にとって、社会にとって意味あるものでなければ、大切な人生の一部を仕事に切り売りする価値はないと考えています。生活するための費用くらいであれば、“就職”という労働形態にこだわらなくても稼ぐことは可能だからです。
テレビなどを見ていると、インタビュアーの質問に対して若者が「ラクして稼ぎたい」と話しています。特に努力をすることもなく、自分の欲しいものが買えたり、行きたいところに行けたりするだけの財政的余裕がほしいのは誰も同じでしょう。この“ラクして”というのは、何もしないとは少し異なり、“それなりに”働いていることが前提である意識が見え隠れします。つまり、働くことを放棄しているわけではないのです。
一方、ある雑誌のなかで、株式投資を通じて何十億円も稼いだ若いデイトレーダーは、「人生に虚しさを感じている」と話していました。また、「自分は働いているのではなく、部屋でインターネットをしているだけ」というような内容を話していました。私たちが驚くような金額を稼いでいても、横顔はどこか寂しげで。その声のトーンからは生気のない様子がうかがえました。何でも購入できるけれども、何かが足りていない状況にいるのかもしれません。
いま、働くことに意味を求める若者がいて、社会の側もそれを応援しようとしています。ただ、働く前からいろいろと思考をめぐらせてしまうことで、立ち止まってしまう若者が社会に多く存在します。その大半はとても真面目に働く意味を考えています。しかし、この立ち止まりの期間が長期化すると、若者は実践経験を獲得する機会を持つことができず、それが自信の喪失につながることもあります。
働いた経験のない若者は、「働いていないことのほうが、働いているよりもつらい」ことを知りません。だからこそ、仕事選びで悩んでいる若者がいるのなら、働いてみることから始めてみるよう声をかけることが大事なのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか