そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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負の経験を断ち切る

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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家庭の状況にかかわらず、最低限の体験機会を保障する動きが各地で行われています。2025年秋には「子どもの体験コンソーシアム」が設立され、専門家や実践家が集まり、体験格差をテーマに議論がなされました。

そのなかでも、私が注目しているのは「負の経験」です。もちろん、新しい世界に触れ、これまでに会ったことのないひとたちとかかわる「正の経験」も重要ですが、支援活動を通じて、どうしてもマイナスの経験を未来に持ち越している若者に出会います。

ある男性は、幼少期のつまずきから非行に走りました。彼の所属するコミュニティでは、強さが正義であり、力による縦の社会が形成されています。日常の寂しさや、うまくいかない生活のはけ口として、参加した当初は楽しかったかもしれませんが、その社会においては年長者の声は絶対です。力による支配関係にありますので、指示を断ることは身を危険にさらすことと同義です。

ここでは一般的に正しくない行為がまかり通ります。それは飲酒や喫煙であったり、深夜徘徊なども該当します。よくない行為とはわかっていても、勧められたら断れません。逸脱行為に加担しないことは、唯一のコミュニティからの排除されることにもつながります。居場所を持たない若者や子どもたちにとって、そのコミュニティがなければひとりぼっちになってしまいます。

育て上げネットとして出会った若者は、そのコミュニティでかけられる圧から抜け出す決意をしました。しかし、それほど容易なことではありません。自宅付近まで押しかけられたり、SNSや電話を通じて相当な圧力をかけられます。

ご家族などとも連絡を取りながら、比較的長い期間をかけて支援者が伴走し、彼はそのコミュニティから排除(解放)されました。周囲に“面倒な大人”がいることをコミュニティとしても嫌がったのかもしれません。

彼が経験してきた「負」の側面は、彼の現在から未来へは持ち越されていません。毎日、しっかりと働いて、安定した生活基盤を築いています。ときどき遊びに来ては、仕事のつらさをぼやいていますが、自暴自棄になりかけた頃の姿はまったくありません。

負の経験を持ち越すことは、若者の未来をつぶす可能性があります。それらの行為を肯定的に受け止められるコミュニティは限定されており、そこにしか居場所がなくなってしまいます。若者や家族にとっても、地域社会にとっても安全ではない環境しか残りません。

若者や子どもたちは望んで負の経験を獲得しに行くのではなく、そこしか受け入れてくれるひとたちがいないから、足を踏み入れてしまうのだと思います。迎え入れるひとたちもそれをわかっているのでしょう。だからこそ、若者たちの可塑性に注目し、負の経験を若者の未来に持ち越させないよう、私たちは負の経験を断ち切る支援にも取り組まなくてはなりません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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