若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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35歳の運転免許取得で考える
リスキリングの課題
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
35歳になって、車の免許を取ることになるなんて思ってもみませんでした。教習所に通うと、周りはほとんどが若者。30代以上で免許を取る人は全体の10%ほどだそうです。私は普段から若い人と接する機会があるので違和感はありませんが、そうでなければ少し心細いかもしれません。
そもそも、これまでに運転免許を取りたいと思ったことはありませんでした。親から「あなたは抜けているところがあるからやめておけ」と言われ続けてきたからです。その言葉は長い間、呪いのように心に残り「それが自分だ」と思い込んでいました。
教習所での初日、運転適性検査を受けました。結果は「運転能力に問題はないが、性格的には向いていない」。曖昧にしてきたことが、客観的な事実として突きつけられた気がしました。呪いではなかったのです。
「事故を起こしたらどうしよう⋯」と不安になりながらも、教習もなんとか終盤まで来ています。ここでふと思うのは、最近よく耳にする「リスキリング」という言葉です。AIの著しい進化を見ても、そろそろ本気で学び直さないと、生産性を保てなくなるという危機感があります。
でも、自分が積み上げてきたものを変えるには大きなエネルギーが必要です。私も人生の転機でもなければ、免許を取ろうとは思わなかったでしょう。けれど、重い腰を上げてみると意外と楽しいものです。この年齢になっても新しい学びがあることに、ちょっとした喜びを感じています。
免許取得とリスキリングを同列に語るのは少し乱暴かもしれません。でも「絶対やらない」と思っていたことを始められたのは、最初のハードルを越えられたからです。
海外では、社員のリスキリングのため、一時的な非生産性を許容し大きなコストをかける企業もあります。大学生のアルバイトに学費補助をする会社もあるそうです。
結局、学び直しの最初のハードルは、時間とお金。そしてもう一つは「やらなければならない」という強い動機です。追い詰められてからでは遅い。穏やかな動機づくりをどう進めるかが課題です。
今は質の高い講座や研修が低コストで提供されています。それでも手を伸ばさない人がいるのは、やらない理由があるからでしょう。免許を避けてきた私のように。その理由をどうやって変えていくかが大切です。
誰もが人生で大きな転機を迎えるわけではありません。だからこそ、企業や学校、社会が学びの動機を作っていく必要があるのだと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)





