若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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ケアの経験を
社会復帰のマイナスにしないために
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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2月に育児休暇をいただきました。育児を始めてみて分かったのは、基本的に物事が4時間単位で区切られるということです。もちろんイレギュラーはありますが、おむつ交換、授乳、寝かしつけ、そして睡眠までを1セットとして、それを1日に6~7セット繰り返す日々になりました。
これまでの自分を振り返ると、これほど他者のケアに時間を割いたことはありませんでした。大学生の頃から予定表は常にパンパンで、自分本位に動いてきた私がどうなるのか、正直なところ少し心配もしていました。しかし、いざ始まってみると、不思議なほど自然に受け入れ、淡々とやるべきことをこなしている自分がいました。
ケアに時間を費やす日々は、意外にもやりがいがあります。相手が新生児ということもあり手はかかりますが、苦しいと感じることはそれほど多くありませんでした。ただ、そんな中で焦りを感じた瞬間があります。SNSを開いたときです。私のタイムラインはAI関連の情報が多く表示されるアルゴリズムになっているのですが、開発環境の大幅な進化に関するニュースが次々と目に飛び込んできます。
1か月程度の育児休暇であれば、ほぼシームレスにビジネスの場へ戻れるでしょう。しかし、パートナーはこれから1年間、育児に専念することになります。もし立場が逆だったらと考えると、私は不安に耐えられるでしょうか。
私はIT業界にいるわけでもなく、開発をしているわけでもありません。そのため、おそらく1年で取り返しがつかないほどの環境変化が起きるとは思いませんが、それでも環境に適応し続けている人たちとの差は1年あれば確実に生まれます。その差を前に、不安を感じないと言い切れる自信はありません。
休暇中、SNSではもう一つ「ヤングケアラー」が大きなトレンドになっていました。内容の詳細はここでは触れませんが、子どもがケアに時間を割くことについて、さまざまな議論が交わされていました。
無業状態にある若者のうち、介護や育児など他者のケアを理由としている人は、総数で見れば決して多くはありません。それでも、一定数は必ず存在します。こうした方々が再就職を目指すとき、「社会復帰」という言葉を使うことがよくあります。働いているかどうかと社会参画の可否は本来イコールではありませんが、この1か月の経験を通じて「社会復帰」と言いたくなる気持ちが分かったように思いました。
ケアの時間が長く続くほど、孤立や孤独の感情は強くなっていくように思います。自分の時間を自分以外のために使わざるを得ないときや、自分自身の心のケアに専念せざるを得ないとき、どうしても不安は大きくなります。実際に、若者たちが支援の場を訪れた際、社会との接点がなかった時間、いわゆるブランクを気にしている方は非常に多くいらっしゃいます。
私たちは、そうしたブランクに理解のある企業との関係を少しずつ増やしています。ケアの経験が不利に働かないように、それもその人の大切なヒストリーの一部として受け止めてくれる企業とのつながりを増やしています。まだまだ多くはありませんが、そうした受容が広がっていくことを願っています。
働き手が不足する時代において、ケアの経験を排除するのではなく、そこに価値を見出すことは、人材確保の一つの重要な視点になるはずです。社会の理解が、その方向へと変わっていくことを期待しています。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)





