そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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空前のバンドブームのきっかけとなった
若者にインタビューした話

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

育て上げネットでは空前のバンドブームといえるほど、拠点ごとに音楽をテーマにした支援が展開されています。もともと音楽に興味がある若者は多かったようで、楽器経験のあるスタッフがサポートできたのも大きいです。種がまかれた土壌に水が与えられ、あとは日光さえあれば⋯というところで、昨年12月の音楽ライブの開催によって一斉に開花しました。

そのなかでも活動歴が10年近くなった老舗バンド「マスターズ」のメンバーに、インタビューしました。マスターズは発起人すら一時離脱したことがあるほど加盟・脱退が自由。就職が決まっていきなりメンバーがいなくなったりもするので、実は来年2月に予定しているライブさえ、メンバーがそもそもその時期までいるのか?⋯と不安を感じながら練習をしているような不思議なバンドなのです。

現在の中心メンバー(ドラムス担当)はもともと別のバンド活動をしていた経験のある方で、私たちが提供している支援プログラムを利用するようになったときにマスターズと出会いました。支援プログラムの利用を進めるなかでマスターズに誘われ、すぐに頭角を現しました。

マスターズは今でこそライブ会場を借りて発表の場を持つようになりましたが、以前は年に数回、内部で発表する程度でした。彼の話で印象的だったのは、経験者であり、しかも周りをリードできるようなスキルを持ちながら、周りのメンバーに楽しんでもらいたいという気持ちがとても強かったことです。

スタッフも必ずしもスキルがあるわけでもなく、音楽活動を仕事と言い切るのも難しい時期もあるなかで、彼のようなコアな活動をしてくれる存在が、ここまでマスターズを存続させてきた原動力なのだと感じます。

一方で、就労支援団体で「働く」を支える私たちが音楽活動をするのは、どういうつながりがあるのだろうかと思われるかもしれません。重要なのは、社会のなかに自分の存在価値や生きている価値を見出せることなのだと思います。それは働くことと直結している必要はないようで、見つけた生きがいをエネルギーにして、次の道へ進んでいく方もいらっしゃいます。

実際、この彼は「みんなにもっといい場で音楽を体験してほしい」という気持ちを私たちに伝えてくれて、私たちもその気持ちに応えようと実際にライブハウスを借りることにしました。このとき彼は「ライブ当日までに就職しよう」と決心をしたのだそうです。

結果的にはライブの1か月前に仕事を決め、バンドメンバーに報告をしてくれました。就職先の社長はライブに来てくれて、なんと次のライブ会場を借りてくださいました。

彼の「みんなに楽しんでもらいたい」という気持ちがきっかけとなり、音楽が彼の人生を紡いでいく力になりました。私たち支援者ができることは限られていますが、少なくとも、今を生きる人生の軸となるものがあってよかったと感じます。

マスターズはいわゆるバンドというよりは、無形の居場所(コミュニティ)のようなものだとも思います。人と人がつながるツールに、空間は必須ではないのかも知れません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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