そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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当事者インタビューを
断ってしまう理由

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

ありがたいことに最近は取材やヒアリングの機会が非常に多く、忙しくしています。政局のひとつのテーマに取り上げられた、若者そして就職氷河期世代への支援を行っている団体として、特に当事者の声を聴きたいというリクエストが増えています。

事前にいただいた取材票に「という状況が社会課題化しており、どこそこの統計資料によれば⋯」とデータも丁寧にまとまっているうえでの取材依頼もあります。調査機関が公正に調べたであろうデータは一定の事実でしょうから、それだけで記事にできるのではないかとも思うのですが、やはり客観的な結果とn=1の当事者の声が合わさって初めて記事になると、取材する側は考えることが多いようです。

取材対象となる当事者の要望が非常にはっきりしていることもあります。これは調査ではなくて取材ですから、伝えたいことを補強する当事者を探すことをとやかく言うつもりはありません。それにしても、こうした依頼を受けるたび、私たち広報担当者は「いや、そんなケースの人いるのかな?」と首をかしげるのです。

「どうやら調査結果ではこういう悩みを持つ方が多いようです。実際に話を聞かせてもらえませんか?」といわれると、たしかにそのケースはありそうな話だと感じるですが、実際にはつなぐことができない、ということが少なくない数で起こるのです。

そうすると、「いわゆる」なんてケースは本当はいないんじゃないか?と疑うべきか、あるいは確かに存在しているのだけれど、私たちの支援の輪の外にいるだろうか?と考えるべきか悩みます。

実際のところ、実体としてあるのは前者に近いもので、「いわゆる」というのはわりと表面的な情報でしかないのでしょう。若者の抱えているものは非常に複合的で、それぞれ少しずつ異なります。この「少し」が記者の求めているストライクゾーンからどんどん外れていき、結果的には噛み合わないことも多々あります。

こちらが「こういう経験をお持ちの方でしたら協力してくれそうだけどどうか」と伝えると、電話口からもわかるトーンで(いや、そういうことじゃないんだけど⋯)って反応をされることもあります。私も「そういうことじゃないですよね」と思いながら伝えていますから、そういうものです。

記者さんの気持ちもわかります。だってデータ上では「こういう人が多い」とされていて、その支援団体に声をかけているのだから当然いるはずと思われるのでしょう。残念な思いをさせてしまうのは申し訳なく感じています。

まず前提として、取材を受けてくれるまで協力的な方というのは決して多くありません。そのなかでも社会にこういう課題を知ってほしい、自分のような悩みを持っている人に希望を持ってほしい、そういう志の方が協力してくれている背景もあり、それは全体で見ると限られたものとなります。

量的なデータを丁寧に調べてくださるがゆえにストーリーが緻密になっていることで、かえって取材の協力ができないケースが増えてきています。我々の活動に関心を持っていただけた記者のみなさんには申し訳ない思いもありますが、せっかくの機会ですので求めるストーリーは措いておき、実際の当事者の声を掛け値なしに聞いてみてもらいたいなと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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