そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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交通費の支援を通じて
社会参加を促す取り組み

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

育て上げネットの活動で、交通費やスーツなど支援や就活を進めるために必要なものの実費負担を軽減するための現物(お金)支給プログラムがあります。

もともとは「行きたいけど、お金がない」という現場からの多数の声を聞いた、30~40名ほどの有志の想いのもとで展開できています。かれこれ4年ほど続けてきて、受益者は延べ400名を超えました。

支援を必要とする多くの方は、家族からの協力が得られなかったり、友人宅を転々としているような生活で頼れる人がいないというケースが多いです。また、未成年だけど生活保護世帯で交通費すらも重い負担になる場合もあります。

最近はこのプログラムを利用する方に、寄付者の存在を伝えるようになりました。押しつけがましく聞こえるかもしれませんが、どちらかというと、実社会に信じられる大人がほとんどいないなかで、せめて「寄付で応援してくれる人がいるんだ」と知ってもらうことは結構大事なことだと考えるようになりました。

あるひとりの方が寄せてくれたコメント(抜粋)を紹介したいと思います。

私という引きこもりにとって外は、ひどく眩しい世界です。
今まさに働いている人々、意欲ある学徒、休日を楽しむ社会人、そこに混ざる異物感。
邪魔してはいけないと思いますし、邪魔者であると感じます。

この方の場合、社会のなかで外に出ることの精神的な負担感が非常に強かったことがわかります。自分が存在して良いと思えないのは苦しい経験だと思います。

誰かが通行証を発行してくれるわけでもなし、「通ってよい」と許可をくれる通関があるわけでもありません。結局、それを承諾するのは自分ですから、自分が自分を認めなければなりません。

この方のコメントは、さらに「だから外に出ない言い訳を探し、その口火となるのが金銭を消費する交通費です。交通費支給は、そんな実利的な言い訳を塞いでくれるものです。」と続くのですが、お金という通関門を自ら用意するケースもあるのだと知りました。

そういう意味でも、寄付者のみなさんが通関役というわけではないのですが、少なくとも社会のなかに受け入れてくれる人がいると知ることは、多少なりとも自身を容認する後押しになってくれるのではないかと信じています。

ある支援者から「社会に出てみようという気持ちは、貯金のように積み重なって満タンになって初めて効果があるのだ」と教えてもらいました。

このプログラムも短絡的に見れば、現金支給プログラムということにはなるのですが、実際にはその過程で生じた人と人とのゆるやかなつながりを通じて、自分が生きていても良いと思えるエネルギーの貯蓄になっていそうです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)