
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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なんでもスマホでできるから、
スマホがないと孤立しやすい問題
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
暑さが続く7月のある日、生活困窮者支援のNPOで活躍している佐々木大志郎さんがX(旧Twitter)で投稿していた内容に、目を惹かれました。
7月半ばから、「タイミーがアップデート後に開けなくなり、仕事ができずホームレスになるしかない」という相談が複数人から寄せられています。どうやら今月のアップデートでiOS16以降のみ対応となり、古いiPhone(7など)を使っていた方が足切りされ、突然収入源を断たれる事態が発生しています。朝はアプリを開けたのに、昼過ぎにはもう開けなくなったケースも。(佐々木大志郎|NPO法人トイミッケ@せかいビバーク @dai46u 2025年7月15日)
(※「タイミー」=株式会社タイミーが運営するスキマ時間バイト募集アプリおよびサービス)
7月半ばから、「タイミーがアップデート後に開けなくなり、仕事ができずホームレスになるしかない」という相談が複数人から寄せられています。どうやら今月のアップデートでiOS16以降のみ対応となり、古いiPhone(7など)を使っていた方が足切りされ、突然収入源を断たれる事態が発生しています。朝はアプリを開けたのに、昼過ぎにはもう開けなくなったケースも。 pic.twitter.com/8oVT7T8Pgj
— 佐々木大志郎|NPO法人トイミッケ@せかいビバーク (@dai46u) 2025年7月15日
スマホに限らず、情報機器はどんどん更新されています。古いバージョンのシステムをサポートし続けるのは会社から見ればコストが大きくなる一方ですし、脆弱なセキュリティによって、事件になるようなトラブルをもたらしてしまうわけにはいきません。会社からすればどこかで足切りしなければならないのは当然です。
ですから、この件についてアプリやOSの提供元に対して「どうにかしてほしい」ということはありません。
この投稿から知っておきたいのは、社会との接点を持つうえで、テクノロジーとの関係を途切れさせないことが重要なファクターであるということです。固定電話が使われなくなりつつある現在では、持っているスマホが機能しなくなれば電話もできないし、LINEもSNSのDM(ダイレクトメッセージ)も利用できません。
そうした「途絶状態」が起きる要因のひとつが、旧バージョンのスマホをサポートしなくなることなのです。経済的に厳しい状況にある方にとって、スキマバイトのような短期的な収入源は貴重なもので、こうして、自分のスマホがバージョンアップに耐えられないと一気に窮地に陥ってしまいます。
コロナ禍以前に発売されたスマホ機種は、そろそろ使えなくなっていきます。コロナ禍を通じて厳しい経済環境に置かれ、価格も上がった新機種への切り替えが難しい人たちは、より苦境へ追いやられてしまうかもしれません。
以前、オンラインの予約システムが使えないという方から詳細を聞くと、10年ほど前の機種を大切に使っておられるというケースもありました。今後、このタイプの問題は大きな課題となっていく可能性があります。
スマホのハード面での支援は、公共ではやりにくい部分があるでしょう。スマホ自体を貸し出すのはハードルが高いですし、通信環境も含めればランニングコストもかかり続けます。だからこそ、私たちのようなNPOのような存在が支える必要のある領域のように感じています。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)