そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「目標も目的もない支援」が必要なのは、
そうでないとつながれない若者がいるから

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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「夜のユースセンター」というプログラムを、育て上げネットでは若者たちに届けています。専門用語でいえば「居場所」と呼ばれるもので、明確なゴールを設けず、つながりを感じることやちょっとした社会参加を促すものです。就職や進学という目標があった方がいいのではないかと思われるかもしれませんが、実際の当事者の声を聴くとそれぞれが複雑な状況にあることがわかります。

本人たちもなんらかのゴールが必要であることは理解しています。学生年代なら復学や進学あるいは退学して就職したい、成人の方なら働きたいと考えていることが多くなりますが、経済的な自立や親元・地元から離れることにモチベーションを持っている方もいます。

ただし、誰もがそうやって目標をもって進んでいけるとは限りません。就職を目指すとしても、まだ自分が何をしたいのか、何だったらできるのかがわからない方もいるので、いきなり働くという段階までには至らない方も多くいらっしゃいます。

「働くこと」にイメージが持てない方には、厚労省が行っている「サポステ(地域若者サポートステーション)などで働くための心構えや準備ができるプログラムもあります。ですがこれらも「近い将来には就職を」という、うっすらとした気持ちを期待されています。

現実には、さらにその手前の段階の若者たちもいるのです。それは働いたり、学校に通ったり、社会とのつながりを主体的に持つことも今の段階では厳しいという状態の人たち。目標を持つこと自体が負担になっていたり、自分がそれを実現できるとは思えないほど自己肯定感が落ち込んでいる状況にあります。

だからこそ、居場所には目標がありません。支援スタッフからは相手に「努力を求めない」姿勢を強く感じます。その代わりスタッフは通常とは異なるエンパワメントが求められているでしょう。1対1の相談機会を設けるでもなく、コミュニケーションセミナーのようなものもない中で本人からの声を引き出したり、また背景にある課題感を日常の会話や身振りから読み取ったり、本人の発露したものから拾い上げていくことも大切です。

先日、夜のユースセンターに来所している若者にアンケートをとりました。約75%の若者が「わりと自由に過ごせること」を利用理由に選んでいました。逆に目的性のある項目「ゲームができる」「音楽を活動ができる」などは最大でも45%程度で、ほとんどのそういった項目は10%台の結果となりました。

目標や目的を持ったプログラムに参加できることは、実は自己表現の第1ステップをクリアできているということなのだと思います。その段階をまだ超えられない状況にある方にとっては、そうしたものがなく自由に開かれた場が必要なのかもしれません。

夜のユースセンターは昨年度の実績として延べ1,686名が参加しました。今年は7月末時点で700名が利用しており、年間で2,000名を超えるペースで利用が進んでいます。それだけ、まだ目的や目標をもって支援を必要とする段階にないけれど、こうした場に居心地の良さを感じている人が、今は多いのだと考えています。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)