
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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若者支援を取り巻く
注目しておきたいトピックス
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
最近、海外からの視察や見学の問い合わせが増えています。私たちがあまり断らないことも要因かもしれませんが、もともと近しい文化環境にある韓国はもちろん、欧米のとくに北欧地域からの問いあわせは年間を通じて届いています。
以前は「Hikikomori」というキーワードが並んでいましたが、「孤独」の対策について日本の事例を聞きたいという題目も増えてきました。日本でも非常に大きな課題になっていますが、今や決して日本だけの問題ではないのでしょう。
そんな日本における孤独の問題について、最近のトピックスを考えてみました。重要なトピックとしては、国のひきこもり支援のガイドラインが15年ぶりに大幅改定されたことです。
ひきこもりの定義が大きく変わり、いままでひきこもりと捉えるのが難しかったケースもスコープに入るようになりました。多くのひきこもり支援が行政事業の範疇で行われていますから、この定義が変わるということは、さまざまな面で支援を行いやすく、また、支援の幅も持ちやすくなる良い変化と捉えています。
また、今夏の参院選に向け話題に挙がるようになった、就職氷河期世代への施策も注目です。この世代を支えていかなければ、今後社会保障の負担からさまざまな面での社会課題が肥大することは明らかですが、具体的な解消に向けた施策というのは難解で、私たち自身も簡明な答えを持っていません。求人倍率は1倍を割り、まさに「働きたくても働けない」という状態を体現しているようです。
一方で、高卒の求人市場は活気あふれていて、東京都では求人倍率が14倍を超えるようになりました。少子化が進みそもそも担い手が減っていることや、大卒市場を主としていた企業が青田刈りのように高校生へと目を向け人材確保をするようになってきています。
私たちのような支援団体にもさまざまな企業から問い合わせが入るようになりました。人手の確保が難しい業界や広告費をかけられない中小企業など、人手を確保したいけれどうまくいっていない企業の視野には、ひきこもりやニート状態の方も入るようになってきているということです。
支援のトレンドとして感じるのは、早期に関わり、長く付き合うということ。例えば不登校気味や中退を考えているといった段階にある学生へ校内で関わるようになり、そのまま居場所と呼ばれるコミュニティに接続して孤立させないように関わりを持つなど。そのまま次の道があれば問題ないし、何かあれば具体的な支援へと移行していくという「保留」の場が増えてきました。
場合によっては、彼ら・彼女らとは年単位の付き合いになることもあるし、生活支援が必要になれば食料や生活用品の提供という、これまでにない支援も必要になります。
ただ、それでも完全に孤立してしまうと私たちは何もできなくなってしまうので、手立てが残っている環境を作れていることが進歩だと感じています。現在は、支援者であるけれど、その色を強く打ち出しすぎないことで自然な人間関係を作っていくのに重きが置かれています。
今回は社会・経済的な目線から見た、若者を取り巻く環境について触れてきました。今春は新卒求人の給与がどんどん高騰しているニュースが拡がりましたが、そうした景気のいいところだけでなく、社会活動としての部分についてもぜひ知っていただけたら嬉しいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)