
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
221221
夏休みの社会体験と
親をラクにする支援
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
夏休みに入りました。毎年育て上げネットでは、中学生を対象にしたサマーキャンプを実施しています。普段は宿題やテスト対策のために顔を合わせている子どもたちを連れて、地方の山村で思い切り遊びに行きます。
少し話がそれますが、子どものころディズニーランドにほとんど行ったことがなく、どこか自尊心を削られた記憶があります。わりと鈍感なのでいまとなっては大したダメージもなかったのですが、逆にいうと、ディズニー情報がなくても生きていけるコミュニティを、よりどころにしていたのかもしれません。
なんにせよ、社会的な体験というのは、その経験があるかないかというシンプルな差であるがゆえに「ないこと」が目立ってしまうものです。ちなみに私はサマーキャンプというものに参加したことがありません。周りもアウトドア方向にアクティブでないので、今後ももしかしたらないかもしれません。やはり子ども時代の経験が将来の道を作っているのを実感します。
さて、まったく別の視点としてもうひとつあるのが、親側へのケアです。大人になって初めて、夏休み直前の親は憂鬱な気持ちでいると知りました。親の立場だと、昼間子どもが家にいるというのは負担があるのでしょう。この猛暑日が続く夏では「外で遊んで来い」とも言いにくいでしょうし、親からすると考えることがどうしても増えてしまいます。
自然環境の変化は誰を責めるわけにもいかないですが、そうして家族が共有する時間も増えると、たった数日であっても手が離れることが親のリフレッシュにもなるそうです。実際、サマーキャンプ後にとったアンケートでは「親側の気持ちの負担軽減になった」という回答を得たこともあります。
そういえば、最近は学校給食を夏休みに提供するという取り組みを目にするようになりました。もちろん無料ではないけれど、そうすることで日中に家にいられなかったり、朝の時間のケアを社会の仕組みに入れ込んでいくのは素晴らしいことだと思います。不登校や中退などさまざまな子どもにまつわる社会課題がニュースで取り上げられる昨今、必ずしも当事者をどうにかすることだけが解法とは限りません。親をラクにするというベクトルで考えていくことも、重要な観点であろうかと思います。
私たちは家族支援として保護者を支えるコンセプトの事業を16年前からやっていますが、どうしても当事者支援に目が向き、その周縁にいる人たちへの支援の重要性はまだまだ十分に浸透していないように感じます。
核家族化が進み、マンション住まいとなれば、隣の人のことも実は良く知らないなんてことも少なくありません。そうなると子育ての相談相手はいまやAIであったりするのだそうです。AIはねぎらいもうまいですからね。
それにしても、2025年のAIではまださすがに、人をキャンプに連れ出したりはしてくれません。私たち支援者は人的リソースを補う形での支援というのが、今後も求められる形なのでしょうか。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)