そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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(元)当事者の声の価値と
報酬について

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

前回に続き、取材に応えてくれる若者について書いてみたいと思います。当事者インタビューは実際のところハードルが高く、前回その内実に触れましたが、今回は取材ができた場合の考えごとです。

最近の問題は、若者の「経験価値」をどう捉えるのか、ということです。(元)当事者の声は若者支援が取り扱っている情報のなかでも価値が高いものです。実際、体験談をホームページに載せればよく読まれます。気合を入れて長文の記事になってしまっても、意外と滞在時間も比例して長くなって、読まれているのだなと実感もあります。

だからこそ、この価値あるものへの対価が気になります。

協力してくれる方が見つかって、いざインタビューを受けるぞとなった際に、協力費や謝礼金について確認すると無償なことがままあります。私たち職員はともかく、話してくれる本人にまったくリターンが無いというのは、果たしてそれで良いのだろうか? と思うのです。

メディア側からすると、謝金を支払ってしまうと、そこに恣意的な話をさせたのではないか? と嫌疑が持たれてしまう懸念があるのかなとも思います。それはそれで理解できる思考ですし、謝礼が発生するから話してくれたという状況が正しいとも言いません。

ただ、このとき私には2つの疑問が生まれます。インタビューに時間を割いてくれたことへのリターンは単純にあっても良いと思いますし、記事になるような有益な情報を提供していることに対する報酬があっても良いのではないかと思うのです。

前者については端的に、時間的報酬として支払われるべきではないかということです。取材に応えてくれる方の多くは元・当事者にあたります。つまり、現在は働いている方も多いので、時間を作ってもらうのが結構大変です。土曜日や平日の夜にプライベートの時間を割いてくれる方も多いのです。同じ方に何度も協力してもらうとなると、善意での協力はそう何度も続かないものです。

記者さんや私たち支援者は取材も仕事の範疇で、会社から給与という形で支払われますが、本人たちにはそれがありません。誰かが負担する必要があるのではないかと思います。

そして後者の価値報酬についてもぜひ考えていただきたいものです。前提として、わざわざ見ず知らずの人に知らせたい話ではない場合も多くあります。思い出したくない話のときだってあります。でも、それで役に立てるならと話してくれる方もおられるのです。

大きいメディアだと、記事になったあとSNSで感想がついたりします。いくら匿名であっても、本人だけはその取材内容が誰の話なのかは知っています。その後の反応で傷つくようなことを言われることだって否定はできません。

そうした覚悟のうえで成立している取材への対価について考えることが、もう少し定着していくと良いなと感じています。

先日、韓国からの取材がありました。日本と同じように韓国でも若者の無業の問題が大きな課題となる中で、当事者や支援者の話を聞かせてほしいといらっしゃいました。この取材でも金銭的対価は支払えないというのは事前にわかっていたのですが、当日、ギフトをもって取材に臨んでくれました。支援者には伝統の工芸品、そして若者には人気チェーン店の韓国限定グッズ。センスある贈り物に若者も喜んでいました。

対価が必ずしもお金である必要はないと思います。本人のためでなくても、みんなのためのお菓子セットであったり、取材を受けたことがただの体験とならないような配慮が広がったらうれしいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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