そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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社会人になりたい
~社会の一員になるには~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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最近では、「無縁社会」というテーマが反響を呼びました。家族や親族とのつながりのみならず、友人や近所付き合いがない。このままだったらどうしたようか、と将来への不安を語るインタビューがさまざまなメディアで紹介されました。なかには、月曜から金曜、時には土日も返上して働いている若者も登場しています。職場の同僚や取引先のひとと業務上の話はするが、それは「縁」ではなく、会社というものが仲介するつながりでしかないというわけです。

働いているかどうかに限らず、「自分は何の役にも立っていない」「誰からも必要とされていない」と、自分自身を責めるような言葉を紡ぐ若者が少なからずいます。しかも、国家や社会、政治などに不平不満をぶつけてストレスを解消するわけでもなく、もやもや感の原因を自分のなかに探そうとする傾向があります。よい具合に考えてみると、若者の地域離れや社会とのかい離が叫ばれていますが、地域や社会とのつながりと求めている若者もまだまだたくさんいるということです。

社会とのつながりを創る。社会の一員になるためには何が必要でしょうか。若者の側から見たとき、入口としては「勇気」、その後に「わずらわしさの受容」だと考えます。これまでにない接点を持つということは、0から1に行動する勇気が必要です。拒絶されることは恐怖ですらありますが、その一歩の勇気を出せるかどうかにかかっています。もし、それも難しいのであれば、友人や知人、若者と社会をつなぐ支援をしている支援者が参加しているところに同伴することがお勧めです。

ある社会に参加できたとき、次に来るのは「わずらわしさ」です。忙しい、眠い、面倒くさい、疲れている。ちょっと休みたい理由はいくらでもあります。携帯から「今日は不参加で」とメールするのは簡単ですが、そのわずらわしさの受容が「参加」から「一員」への移行になります。「初めまして」とか「また来てくれたんですね」という会話がなくなり、そこに“いる”ことが前提となったとき、その社会の一員になったことの証になります。

ただし、若者だけに社会の一員になることを求める、または、初動を自己責任に帰結するのではなく、社会の側にも努力が必要です。例えば、自治会やPTA活動などは、多様な労働形態を持ついまの社会にとって、非常に参加しづらくなっています。土日が出勤日である業界もあれば、平日の夜は帰宅をすると深夜ということもあります。いまの若者のライフスタイルを理解し、柔軟な参加方法を考えなければなりません。例えば、E-mailやSkype、Twitterなどの無料のソーシャルサービスを活用するなど、従来の紙ベースのやりとり、物理的に集まれるひとだけの会合からの脱却が求められます。従来のやり方を変えることなく、「最近の若者は地域活動に参加しない」という発言には、いかがなものかと思うことがあります。

若者が社会の一員になるには勇気を持った行動、わずらわしさも楽しめるくらいの工夫をしなければならないと同時に、社会の側もこれまでの慣習に甘んじることなく、若者が参加しやすい環境作りに取り組んでいかなければなりません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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