
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
212212
年度末に進路が決まっていなかった
当時を振り返り、
できそうなことを考えてみました
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
24年度末の記事更新になります。年度の切り替わり時は就職や進学という次の社会へと進む話がよく取り上げられますが、そこから抜けて落ちているのは、所属を失う人のことです。
例えば、文科省と厚労省が発表した大学生の就職内定率のデータでは、2024年12月1日時点で84.3%。近年は年末から新年度開始までの間にグッと伸びて、年度末の最終調査では95~98%ほどに到達します。ですから、なんらかの内定が出ている方がほとんどですが、少なくとも2%ほどの方が就職を希望したにもかかわらず未内定のまま卒業を迎えているのです。
高校生も同様に最終的にはほとんどの就職希望者の内定が決まりますが、数%の若者は希望をかなえることなく新年度を迎えています。そういう人が毎年必ずいるということを忘れてはいけません。
働く場所がないとはどういうことか。はっきりするのは社会的なつながりを失うということです。学校には先生という指導的立場の人や友人、職場には同期・先輩・後輩という複雑多様な社会関係がありますが、いきなりその枠組みから外れると縁の拠り所を見失ってしまいます。
また、たくさん努力をしたのに誰からも受け入れられなかったという、自信喪失にさいなまれる方もおられます。卒業するのに必死で就活まで手が回らなかったという話もよく聞きます。並行していろいろ進めるのが苦手だという人にとって、就活はハードルの高いマルチタスクな側面もあるでしょう。
私自身、大学4年間で進路を決められず、一時「無所属」を経験しました。自分が望むものがわからず就活もまともにしていなかったのでそれは仕方ないことでしたが、卒業間近の4年生の2月にやっと働く決心をしたので、そもそも就活のしようがありませんでした。
所属を失うと相談できる相手もいないし、そもそも相談しようという気持ちになりませんでした。支援する側になった今なら、ハローワークや若者向けの支援機関に行く選択肢も思いつきますが、当時はネットで調べて求人に応募するくらいしか考えていませんでした。
そんな経験をしたからこそ、「誰でも良いので相談してみたほうが良い」ということは伝えたいです。私の場合、たまたま拾ってもらえましたが、結局入ってから二転三転しました。それは自己理解が甘かったのと、転ばせてくれた法人のやさしさでもあります。
もし自分がこれからどうしたいという気持ちが固まっていないなら、とりあえずその迷っていること自体を誰かに話してみたらいいと思います。それこそ今なら、AI相手で良いかもしれません。
他人に自分の話をするのは結構難しいことです。実際に人へ話す前に、自分が何を考えているのか、AIと整理してからでも良いかもしれません。何を話せばいいかわからないときは「何を話したらいいか」と聞くのもアリです。あるいは「質問してみて」とAIへ投げかけるのもいいですね。
誰かに話したときに思ったような返答がされないこともあります。例えば「悩んでる暇があったら選り好みしてないで働け」とか、そういう解決に至らないアドバイスなどです。相手が家族だとそういうことも起きやすいようです。それは、あなたと同じように家族も意気消沈していたり、未経験でどうしたら良いかわからないときもあるからです。
相談相手からネガティブな反応をもらったとしても、あなたを悪く言いたいのではなくて、やさしい言葉やアドバイスが思い浮かばないだけかもしれません。あるいは、相談した友人自身が新しい環境に慣れるのに必死で、たまたま付き合いが悪いタイミングだったのかもしれません。勇気を出して話をしてもそういう反応ばかりだと、やはり孤独を感じてしまうかもしれませんね。
もし誰にも話せないなと思ったら、「サポステ(地域若者サポートステーション)」や相談機関を使うことも検討していただけたら嬉しいです。見ず知らずの人に話すのは当然、抵抗はあると思いますが、何も知らないからこそ冷静に、適度な距離で関わってくれるとも考えられます。
支援団体にいる私たちは、あなたに見つけてもらわないと何もできないのが歯がゆいなと感じています。もしこの記事を読んでくださったのであれば、試しにサポステについて調べていただけたら嬉しいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)