そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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氷河期世代に注目が集まり、
取材が増えています

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

年明け以降、就職氷河期世代をテーマにした取材が増えました。きっかけは新卒求人に呼応したもので、比較してニュースになっていきました。その後は単独のイシューとして取り上げられることも増えてきているように思います。

正直なところ、500万社以上あるといわれる国内企業のうち、ごく一部の会社の取り組みが話題になっているのではとも思ったのですが、帝国データバンクのデータ(2025年2月発表)によれば、初任給の引き上げは約70%ほどの会社で行われているそうです。ニュースになるほどの金額上昇の会社は数少ないですが、多くの会社は少しずつ動いています。

取材機会をいただいたときは、氷河期支援のターゲットの狭さについて毎回触れています。氷河期世代の支援の多くが、非正規雇用からのステップアップに注力しています。いわゆる正社員化のための支援は、社会全体の活性や当事者ニーズにおいて、それが中心の話題だとは思うのですが、すべてではないということをお伝えしています。

どういうことかというと、私たちが実施してきた氷河期世代の支援プログラムの参加者は、ステップアップのための支援を望んでいませんでした。「ひとり親で子育てをしながら生活していくなかで、より条件に合った転職をしたい」とか、「テレワークができる環境を求めている」とか、そういった条件の変更についての話はありましたが、正社員への切り替えのニーズはそれほど高く出てきませんでした。

当然ながら、人の数だけキャリアプランに違いがあります。氷河期世代を語るには、厳しい条件での就労の話もしなければなりません。ですが、重ねてきたそれぞれの人生と向き合うと、週5日の常勤を目指すことだけが支援とはいえないようです。

もうひとつ興味を惹くのは「氷河期世代を支えるのは誰か」という点です。例えば、厚生労働省が展開し、地域若者サポートステーションが支援する「若年無業者」には40歳代の方も含まれますが、同省が使う「若年者」という表現では34歳までしか含まれていません。なお内閣府は「若者」を39歳までとしています。

私のような広報を担当する人間からすると、この微妙な言葉の揺れからもわかるように、氷河期世代といわれる年代層を誰が支えるのかというのは判然としていません。もう少し上の年代になれば中高年支援が当てはまるようになりますが、概念として曖昧な部分があり、行政でいえば明確な部署や管轄がないのです。

最後にあるのは雇用の出口についてです。当事者が期待する「就職」というゴールは、企業側が用意していなければ叶いません。育成が済んだころには退職が近いと難色を示す企業もあるそうで、どうしたら経済的な自立に近づく支援が可能であるのかと質問を受けます。

それは私たちよりも企業に聞いてみてほしいとも思いますが、東京都や神奈川県が実施しているソーシャルファーム制度は、より多くの自治体に採用していただきたいです。ソーシャルファームには、生きづらさや困り感を抱く方を対象とした求人が集まっています。その人に合った働き方をいっしょに見つけながら「働く」と「働き続ける」を実現する間口を広げています。

私たちからみると、充分に働く機会を得られなかったり、成長を実感できるような機会に恵まれなかったというだけの方も多いように見えます。さまざまな形で働く機会を得ることで、社会はまた新たな働くスタイルを確立していくことができるのだと思います。

取材後、SNSなどを眺めていると、「自分もその世代だけどうにかなった。苦しんでいるのは頑張ってこなかっただけ」という自己責任に収めようとする声も見られます。その方は本当に頑張ったのだろうし、それを否定する気持ちは全くありません。一方で、困っている方々が頑張っていないのかというと決してそんなことありません。だからこそ、みんなでできることを一緒にやっていきたいものです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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