
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
215215
若者のリアルな声から
「どうしたら支援を利用してもらえるか?」
を考える
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
4月に石破総理が私たちの運営する支援拠点に視察にいらっしゃいました。私たちの取り組みについてお話しさせていただき、また、実際にその日に行われているセミナー見学や、すでに就職を果たした若者にも協力してもらい、彼らと意見交換も行う詰め込んだ構成です。
そのなかで最も時間を割いたのは若者と総理の意見交換のタームでした。30分近い時間をとり、直接、さまざまな経歴を持つ若者の話を総理に聞いてもらっています。総理を目の前にした若者たちは大丈夫だろうか、準備の時間をとっているとはいえ、話はできるだろうかとこちらは不安でしたが、それは杞憂でした。
意見交換に手を挙げてくれた4人の若者は、自分がなぜ支援を利用するに至ったのか、どういった境遇だったのかを丁寧に話してくれました。ある方が話していた「何も予定のなかった自分にスケジュールができて、次の予定があることに喜びを感じた」というお話はリアルな意見だったと思います。
就職を目指す支援プログラムという事業の特性上、どうしても仕事に就くための支援を中心に考えますが、本人たちのモチベーションにとって必ずしもそれだけではないと、よくわかるコメントであったと感じています。
この方が利用していた当時、孤独や孤立を感じていたかは定かではありませんが、「予定がない」ということが不安に近い感情をもたらすことがあります。直接的には問題の解決につながらないようなアクションであっても、行動を起こすことで結果的に目指していたものに到達する、急がば回れ的な価値観も若者支援には重要な観点だと考えています。
例えば、別の事業では、拠点に食料品や生活用品が置いてあり、夕食の弁当も食べることができます。食支援が目的の支援ではないですが、相談に行くのではなく物資を取りに行くのが目的になると、拠点に行く理由ができます。若者との接点をつくる工夫には、こういったさまざまな手段があるでしょう。
それにしても、今回協力してくれた方々は勇気を出して参加してくださったと思います。当日まで誰が来るかは知らされぬまま、スタッフからの「協力してほしい」というお願いに力を貸してくれたことにあらためて御礼をお伝えしたいです。
いわゆるひきこもりやニート状態の若者と聞くと、こうした衆目を集める場に出てくることは拒否感があるだろうと思われがちです。しかし、実態は必ずしもそうではなく、実は自分の経験を活かしてほしいと思う若者もかなりおられます。
自分のような境遇の人を増やさないようにできることをしたい、と使命感をもっている方もいます。だからといって、皆がこちらの依頼を簡単に受けてくれるものでもありません。そうしたアンバランスな環境で、すぐに候補者が出そろったのは支援者と若者たちの良好な関係があったからこそでしょう。
視察を受けた事業は月に数回の相談が中心で、セミナーなどを含めても実際に会って話せる時間は限られています。そのなかで信頼関係をつくり、進路が決まってからも快く協力してもらえる体制が持てたことは喜びのひとつでした。
この視察のあと、総理は就職氷河期世代を中心とした就労支援施策についての発言をされました。それに呼応するように多くのメディアが動き出し、これから若者支援にフォーカスが集まっていく兆しを感じています。これについてはまた別の記事で触れられたらうれしいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)