そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

49-1

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人前で話をするのが苦手
~他者に迷惑をかけない~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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大勢の前で自分の意見を述べたり、自己主張することが苦手だという若者がいます。実際に会って二人で話をしてみれば、しっかりと自分の意見を持ち、それが私に伝わります。「ちゃんとできているじゃん」と言っても、なかなか納得してくれません。かたくなに自分はできないと言い張ります。

どうしてそれほど苦手意識を持つのか聞いてみると、「人前で話をすると緊張する」と言います。単純な“慣れ”の問題かとも思うのですが、もう少しじっくりその理由を聞いていくと、緊張そのものが苦手意識の源泉ではないことが見えてきます。

ある20代の男性は、「自分の話などみんな当然のように知っているかもしれないし、聞いているひとにまったく価値がないかもしれない。そう思うと怖くなって何も言わずに他のひとの話を聞いている側に回ることで、迷惑をかけないことを選んでしまうんです」と言います。

他にもこんなことを言う女性もいました。「何かを話すのはいいのですが、私の話に対して質問とか反論を受けたくないんです。質問に答えられないかもしれないし、反論されてしまうと攻撃されているというか、自分自身を否定されているように感じます」。

自分に自信がない。自分の話に価値がないのではないか。彼らに共通するのは自己評価、自己肯定感がとても低いということです。また、それと比例するかのように、他者への評価を高く見積もり、自分は取るに足らない人間であるということに結論づけてしまいます。

これは何も私が出会う若者だけに突出した傾向であるとは思いません。高校生や大学生にも見られることがあります。特に、会場質問では“一番目の挙手”までにとても時間がかかります。ひとり目の質問が終わり、何となく大丈夫そうだという雰囲気ができると、方々から手が挙がってきます。本来は自分自身が聞きたいこと、知りたいことを聞く“自分のための”機会であるにもかかわらず、何となく全体の調和を乱さぬよう、他者を意識した行動が見て取れます。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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