若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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無業社会
~無業の若者は16人にひとり~
工藤 啓(くどう・けい)
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「無業」という言葉がどのような状態を表すのか知っていますか。失業者とは誰でしょうか。ニートやひきこもり状態が示す定義を言えますか。言葉というのは難しいもので、何となく仲間内では通じてはいても、誰もが理解をひとつにするための「定義」について調べることはあまりないかもしれません。
先日、立命館大学の西田亮介さんと「無業社会 -働くことができない若者たちの未来-」(朝日新書)を出版しました。帯文には大きな文字で「メディア・ネットで叩かれる『怠惰な若者たち』の実態」と書いてあります。もちろん、これは出版社の方々ができるだけ多くのひとに読んでもらいたいと思って考えた表現です。つまり、それだけ多くのひとが無業の若者を「怠けているのでは」と感じているのかもしれません。
若年無業者とは、15歳から概ね30代までの、「働く準備ができていない」または「働きたいけれど仕事を探していない」、そして、「仕事を探しているのだけれど見つからない」若者のことを広く示す言葉です。病気や怪我の療養中であったり、働くことに自信が持てなかったり、履歴書を送ってもなかなか採用してもらえない若者全員です。無業の若者は16人にひとりくらいいます。これだけ多くの若者が“働けない”状態であることを知っているひとはあまり多くありません。だから本を書きました。どうしても伝えたいことがあるからです。
私たちは、誰もが無業になる可能性を持っており、一度無業になるとなかなか抜け出せない社会であることを「無業社会」と呼んでいます。そして、無業の若者の多くはメディアやネットで中傷されるものではないことを示しています。若い世代が働けないということは、若者のみならず、すべてのひとたちにとって好ましくない未来につながっていることを明らかにしていこうとしています。
もしかすると、世の中には“本当の姿”というものはないのかもしれません。「最近の若者は○○だ」と言われても、自分は全然違うと思ったことはないでしょうか。きっと「日本の高齢者の特徴は××だよね」という言葉に、何もわかってないと感じている年配の方々もいるでしょう。しかし、私たちは何となくテレビや新聞、ネットなどで書かれていることが、あたかも“本当の姿”や“真実”であると考えてしまいがちです。
そういった社会の空気や個人の思い込みを少しでも変えて行きたいと思ったとき、どのようなことを考え、まとめて発信していけばいいのかを考え、実行していく若者はたくさんいますが、自分もそういうことに関心があるひとにとって「無業社会」は参考になるのではないかと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか