そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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漫画からの学び
~社会課題の現場を知れる~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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新聞や書籍、ニュースでは、毎日、痛ましい事件やその原因となる社会的な構造などが発信されています。もちろん、それぞれが想定する読者にわかりやすく伝わるために編集に工夫が施されています。

しかし、それはなかなか子どもたちが手に取り、「日本や世界ではたくさんの社会課題があり、現在、または近い未来の自分事なんだ」と理解するのは容易ではありません。その一方、18歳になれば選挙の投票ができることになるような動きもあり、かなり早い年代から政治、つまり、地域や社会をどのようにしていくのか。それを誰に託すのか決定する側にもなりそうです。

早期に私たちの社会が抱え、解決を目指していく諸問題を知ることは大変重要なことであり、しかし、新聞や書籍、ニュースを見なさいというだけでは、社会課題に関心を持つようにはならないのではないでしょうか。

中学生、高校生であれば「生活保護」という言葉を知っていると思います。これだけ情報量が多いわけですから、耳に入らないことはないでしょう。しかし、実際に生活保護にかかるさまざまな諸問題、特に「現場」で起こっていること、課題となっていることを知るのは大人でも簡単ではありません。

『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ著)という漫画は、生活保護にかかわる現場で起こっている、非常に身近でありながらも、知り得ないことが実際のケースとして描かれています。生活保護家庭の高校生が保護者に迷惑をかけないようアルバイトをしたところ、それが原因で追い詰められてしまうケースは大変示唆的なものでした。

病児保育の現場を描いた『37.5℃の涙』(椎名チカ著)は、私のように保育園児を抱える保護者にとってはタイトルだけで涙が出ますが、この体温により保育園に預けることができないとき、誰が子どもを支えるのか。仕事を休む保護者が仕事や給与、特に母親の置かれ得る立場などがリアルに表現されています。

子どもの貧困や、困窮する若者たちを待ち受ける、目を背けたくなるような現実社会は『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平著)や『ギャングース』(肥谷圭介・鈴木大介著)で取り上げられています。

これまでも、これからも私たちは社会の一員として、いま眼の前で起こっている数々の社会課題と自分を切り離しては生きていけません。次の社会を創る子どもたちと大人が未来のために語り合っていく際、子どもたちにひとつのきっかけとして漫画を通した知識の付与を行っていくのはいかがでしょうか。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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