若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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巻き込まれないこと
~そのリスクは小さくない~
工藤 啓(くどう・けい)
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高校では学校に来ているかどうかで出席管理をしますが、大学などは履修している講義ごとに出席管理をします。大学で決められた講義出席日数を下回ると単位を取得することができません。
私は、授業料を支払っている学生が、学びたい講義を選択し、その講義が定めた基準に沿った単位取得や成績評価でいいと考えています。しかし、私がかかわらせていただいている大学では出席日数の管理が必要(実習や部活動などでの欠席をどう扱うかは裁量があります)となりますので、毎回の講義後に出席を取っています。
さまざまな出席確認の方法がありますが、私はシートを配布して、学籍番号や名前を書いたものを集めるスタイルを取っています。学校のシステムを使った出席管理もできるのですが、今年は紙を使っています。
一講座15回の授業のため、全部出席すると出席カードも15枚となります。休めばその分少なくなります。このカードを学生ごとにまとめると、「ん?」と思う瞬間があります。それは同一人物の出席カードにもかかわらず、筆跡がまったく違うのです。本人は欠席で、友人か誰かがそのひとの分も出席カードを書いて提出したのでしょう。200名近い学生がいると、ぼちぼち出くわします。
先日、今年度の講義も終わるということで、少し講義内容とは関係のない話をしました。そこで伝えたのは、「友人に頼まれ、やってはいけないとわかっていることを(気軽に)行うリスク」についてです。
代返(代わりに出席の返事をすること)は、教室にいない人間が、教室にいる人間に頼んで行われます。頼まれたと言ってもちょっと出席カードを書いて出すだけですから、とくに罪の意識もないでしょう。しかも、代返をした本人はちゃんと講義に出席しているわけです。自分は講義を受けていて、休んだ友人のために出席カードを書いて提出する。ただそれだけです。学生が5人や10人いればすぐわかりますが、何百人もいるわけです。仮に見つかっても注意や叱責くらいでしょう。
それでも私は時間を使って伝えないといけないと思いました。友人に頼まれ、やってはいけないとわかっていることを(気軽に)行うリスクは、学生が考えている以上に小さくないものだと。そして、社会に出れば、友人ではなく、友人のフリをしたひとが、頼まれたら気前よくやってくれる性格に付け込んでくる可能性もあることを。
友人であっても、そうでなくても、常に私たちは予想外のことに巻き込まれる可能性を持っています。そして巻き込まれた結果として被るリスクに責任を負うこともあります。しかし、リスクを背負う意識のないまま巻き込まれ、被害を受けることは回避してほしいのです。
知人や友人からの頼まれごとでも、引き受けられないものはしっかりと断ることのできる人間でありたいですね。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか