若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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高校生と普通
~高校生でない進路~
工藤 啓(くどう・けい)
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前回、高校生の卒後進路として就職と進学が「普通」となっていることについて書きました。卒業とは高校生活において出口の話ですが、少し入口についても触れてみたいと思います。
いま、ほとんどのひとが高校生になります。中学時代、高校に進学するかどうかで迷ったことがあるひとは少ないのではないでしょうか。私は迷うことすらなく、中学を卒業したら高校に進学するものだと思っていました。それは疑うことのない「普通」で当たり前のことでした。
いま、私の職場には17歳の職員がいます。彼が16歳で就職してもうすぐ2年になります。
友人から紹介をされて会ってみましたが、どこにでもいる16歳でした。少しだけ違うとすれば、高校に進学する理由を考えてみて、特に進学しなければならない理由が思いつかず、その結果、高校に進学しなかったということでしょうか。
高校よりもプロとしての道を選ぶスポーツ選手がいます。時間のすべてをアート活動に投入するアーティストもいます。国境を越えていく旅人のようなひともいるでしょう。ただ、彼には高校進学より大切な何かがあったということでもないようです。
初めて会ったとき、彼は私に「働いてみたい」と言いました。高校に行っていないからでもなく、何かを実現したいからでもなく、お金を稼ぎたいからでもない。純粋に働いてみることでどんな自分に出会えるのか、そこにどんな世界や学びが存在するのかに対する好奇心がそこにあるように思いました。そしてそれは彼にとって「普通」に選択した生活であると同時に、同世代からすると「普通」でない生き方なのかもしれません。
誰でもない多くの“みんな”と同じであることが「普通」なのか、「普通」だから自然とそれを選ぶようになるのかはわかりません。「普通」だからそうするのではなく、自分で考えに考えて出した結論が周囲の「普通」と違っていても、「みんなはみんな、私は私。それでOK」と思えることを大切にしていきたいですね。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか