若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
1-11-1
生活コスト
~1人暮らしにかかる経費~
工藤 啓(くどう・けい)
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先日、都内の高校1年生に「職業講話」なるものをするよう依頼された。1年間に数十回の講演をするのですが、中学生や高校生の前で話をすることは稀である。担当の先生との打ち合せでは、進路指導に役立つ話をしてほしいと言われたけれども、自分が高校生のとき、外部講師の話などまともに聞いた記憶がないのだ。どこかの企業の社長さんがアリガタイ話をしていたような。
いろいろな人にどうしたらいいものか相談したのだけれど、高校生は大変だよ、と口をそろえる。話の内容もさることながら、一瞬でもつまらないと判断したら、まったく聞く耳を持たないからだという。さて、どうしたものかと本気で悩んでしまった。
これまで支援してきた若者は大学生以上が大半なのだが、いつもビックリさせられるのは、その生活コスト感覚がほとんどないことだ。地方から出てきて、1人暮らしをしている大学生などは知っているが、実家から学校へ通っている場合は、1ヶ月の生活費がどれくらいかかるのか知らないことは少なくない。
ニートやフリーターになってしまった若者への就業支援も大切だけれども、働くこと以前に、もっと知っておかなければならないことがあるのではないかとは常々考えていた。そこで、担当の先生にお願いをして、生活コストを知るためのワークショップを開催させていただくことにした。
「明日から1人暮らしをしなければならなくなってしまった」という設定にし、1ヶ月間、それぞれの生徒さんが必要だと思う生活費の最低額を算定するのが第一段階である。通信費、食費、水道光熱費、交際費、家賃までは想像がつく。知っている生徒さんは、敷金と礼金を項目に書いているが、かなり少数派だ。
友達同士での相談にも飽きてきたころにタイムアップ。高校生の平均的な1ヶ月の生活費は15万円ほどだった。でも、その金額では自立して生活してくことはできないのだよ。生活にかかる経費はまだまだあるのだ。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか