そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

4-1

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こんな言葉に要注意
~「別に。」と「けど。」~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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他者とかかわることがシンドイと感じる若者とたくさん出会っていますと、ちょっとした言動の端々に共通な点があるように感じます。特に、こちらからの質問に対して「別に。」と答える場合や、会話の最後が「けど。」で終わってしまうようなときです。

考えてみると、「別に」はそれだけで文章を完結できる言葉ではなく、通常は「別に○○ではない」と否定で締めくくることが多いのですが、「別に○○ではないが、△△である」と自分の意見が後に隠れている可能性があります。また、「けど」は次に本意の言葉を続けるためのものであり、それだけで主張が終わることは意味を成しません。

実際、「別に。」や「けど。」で言葉を終わらせるような若者に対して、「別に…なに?」とか、「けど…なに?」と追いかけるような質問をすると、彼ら(彼女ら)の本音や主張が出てきます。これを“わざわざ”追いかけ質問をしなければ、それらの言葉は他者に伝わることなく流れ消えてしまうでしょう。また、若者も流れ消されることに慣れてしまっていて、初めから聞いてもらえないものとして後に続く言葉を出そうとはしません。

私は、これを若者自身の自己主張力の低下と捉えてしまってはいけないと思います。家庭には疲れ切った共働きの両親、学校の先生は忙しく、じっくりと若者(子ども)の話を聞いてあげることが難しい状況です。友人同士の会話も端的でわかりやすく、メールで速打できる文字数に絵文字を加えなければ“うっとうしい奴”になります。

そのような環境でもうまく適応できる若者は、いわゆる、“コミュニケーション能力”が高いのかもしれません。しかし実際は、伝えたいことを完結に短く伝えることは若者でなくとも困難です。だから、せめて大人の側の人間は意識的に「聴く」必要があるのです。カウンセラーのような専門家の真似をする必要はありません。若者の「別に。」と「けど。」の後ろに隠れている本心の部分を見つけてあげるお手伝いで十分です。

それを繰り返すことで、若者は「別に。」と「けど。」から「。」を取り、後に続く言葉をきっちりと言えるようになるのです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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