若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
5-15-1
父親と母親
~悩んだときは母親が先~
工藤 啓(くどう・けい)
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今回は、若者から少し派生して保護者の話をします。
進学や就職で悩んだとき、若者が“とりあえず”相談したいと思うのは母親のようです。共働きが一般的でない世代の保護者限定の話かもしれませんが、若者にとっては、家庭で長く時間を共有している母親であれば、自分の悩みのいくばくかをすでにわかってくれているだろうという安心感があるようです。
それに加え、家庭のお財布を管理しているのも母親が大半ですから(いまは変わってきているようですが)、お小遣いの支給元であり、臨時支出時の緊急融資先としての存在感もあるようですので、何かを頼みやすい存在なのでしょう。
この「頼みやすさ」は、日常生活の積み重ねから生まれるものです。普段からちょっとしたお願い事をしたり、愚痴をこぼしたりすることが、最終的には「母親=相談相手」という構図を作ります。父親への頼み事も、母親を仲介役(緩衝材)として立てることも多いようです。
保護者に限らず、日常的に若者と接する方であればわかると思いますが、彼ら/彼女らがいつもとちょっと違う態度や話し方になるときは、何か相談事があるときです。伝えたいことが伝えられないときもあります。何かいつもと違うなと思えば、父親と母親でどうしたのだろうと話し合いが行われ、次の行動に移るための作戦会議が開かれるかもしれません。いつ、どこで、父親と母親のどちらが話をしてみるのか、とても迷うところです。
そんなときの若者の心境は、「母親=相談」「父親=説教」というのが多い気がします。父親に声をかけられると、何となく怒られそうな気がしてしまう。もちろん、すべての家庭で当てはまることではありませんが、それが全体的な傾向です。まず、母親に相談。父親への相談も、母親に伺ってからです。母親を味方につけてからということもあります。ですから、日常生活の中で何らかの違和感を持ったときには、母親から話しかけるのがBestかどうかはわかりませんが、Betterではあります。
私が子どもについての相談を受けるときにも、これを基軸にして対応策を考えます。積極的にかかわろうとする父親もいますが、父親には父親の役割もあるわけです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか