若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
6-26-2
選択するチカラ
~選ばないひと~
工藤 啓(くどう・けい)
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選択できなくなっているひとがいる一方で、選択を放棄してしまうひともいます。自らの意思によって方向性を決定するのではなく、“自分以外の誰か(何か)”が決定した選択に流されてみるタイプです。
傾向としては、これまでの人生の大半を保護者などの意向に沿ってきた若者が多いのです。それがうまくいっているとき、問題は表面化することがありません。しかし、誰か(何か)によって決定された進路が、結果としてよいものでなかった場合、その責任を自分以外のものにぶつけてしまいます。
最近、少し目に付くのが、決めてもらうのではなく、決めさせるような行動を取る若者です。若者の自立に対して、さまざまな社会インフラが整うなか、相談に乗ってくれる大人の数はとても多くなりました。学校内では担任や進路指導の先生に加え、スクールカウンセラーなども配置されています。学校外でも、キャリアカウンセラーやコーチなど、多くの相談先があります。企業や学校も電話やインターネットで悩みに答えるサービスを提供しています。それらを複数活用することで、結果として自分で決めないで進路を決定するのです。
例えば、先生と友人に意見をもらいます。そこには2つの意見があるとしましょう、先生は大学進学を、友人は専門学校進学を勧めたとします。そして、第3の相談者に対してこのような質問をするのです。「先生は大学進学を勧め、友だちは専門学校がいいのではないかと言っています。私としてはどちらも迷っているのですが、その2つのどちらがいいと思いますか?」と、第三者に対して意見を求める形で、実は、他者に決定を促しているのです。
第三者がこれを見抜いた場合には、「それでは、あなたは将来にどのような希望を持っているのだろうか?」と、本人の目標や目的を整理するのですが、そうでない場合には、どっちが適切かを思ったとおりに伝えます。それが自分で選ばない若者が他者を活用する方法なのです。
誤解をしていただきたくないのですが、この方法論を“意図的に”行う若者はほとんどいません。そこまで計算をして自らの選択を避けることにメリットはほとんどありません。ただ、自己決定自己責任論が手放しで賛同を得るなか、そこに無条件で乗ることができない若者は、他者に相談をします。1人では不安なので、2人、3人と自らの相談者を増やし、気が付くと誰かが自分の進路を選んでくれているといった流れです。
選べない若者も選ばない若者も、必要としているのは膝を突き合わせて“交通整理”をしてくれる、信頼できる他者というところは変わりません。さまざまな情報、価値観が交錯する相談を通じて混乱をした若者は、信頼できる他者の助けを必要としているのです。言葉として必要だとは言わなくとも、他者が少しだけ客観的な視点で介入することで、彼ら/彼女らの人生はよい方向に展開していくのだと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか