若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
7-17-1
デジタルコミュニケーション
~ケータイ友達~
工藤 啓(くどう・けい)
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「ケータイ友達」と聞いたことはありますか。
先日、大学生のグループと話をする機会がありました。「ニート」や「フリーター」をテーマに卒業論文を執筆するので、話を聞きたいということでした。5名の学生に囲まれながら質問に答えていると、ある男子学生の携帯電話が鳴りました。私が「気にしませんので、どうぞ」と言うと、申し訳なさそうに相談室を出て、3分くらいで戻ってきました。しばらくして、別の男子学生の携帯電話が鳴りました。同じように、「どうぞ」と言うと、彼は携帯電話のディスプレーを確認して、「ケータイ友達なので大丈夫です。すいません」と言って、電話を切り、マナーモードに変えました。
小一時間程の話を終えたとき、私は「ケータイ友達と友達は違うのですか?」と聞くと、その彼は「そうですよ」と答えました。その他の学生も「ケータイ友達」がいるそうです。私にはその「ケータイ友達」というのが思い当たらなかったので、率直に彼ら/彼女らに聞きました。
「ケータイ友達って何ですか?」
すると、話の間に携帯電話をマナーモードに切り替えた学生が説明をしてくれました。「ケータイ友達というのは、基本的には携帯メールのやりとりしかしない友達です。ネット友達と違い、顔も本名もしっています。ただ、一緒に出かけるということはなく、何となくメールで世間話をするような、他人でもないけど、友達とも言えない友達ですよ」
この「ケータイ友達」とはいつでも関係を切れる友達ではなく、悩んだときに相談をしたり、アドバイスを求めたりすると、“それなりの”対応をしてくれる“大事な”友達であり、(本当の?)友達には、自分の抱える悩みなどを話すことはなく、つまらない話を“持ち込んで”、良い関係を壊したくないそうです。「ケータイ友達」とは深い関係でないため、相談ごとも気を使う必要がないということでした。
これを聞くと違和感/不快感を持たれる方がいるかもしれません。しかし、私はいまの若者はさまざまなコミュニケーション媒体を駆使して自分を支えていて、昔よりも人間関係を維持するのに大変な労力を使っていると感じました。携帯電話がなかった時代には、それなりの維持方法があったかもしれません。
一方、新しいコミュニケーション媒体が流通するなか、いまどきの若者は、他者との関係維持のために、見た目は平然と、しかし、莫大な苦労を強いられているのかもしれません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか