そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

8-2

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感情と積極性
~vs他グループ~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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さまざまな若者とのかかわりを通じて感じることは、「敵がいなければ、味方になれない」ということです。敵というと言いすぎですが、協調性や団結力はその理由があって初めて育まれるものだと痛感しています。

高等学校での出張ワークショップで作るグループもしかり、「育て上げ」ネットで支援する若者で作るフットサル(サッカー)チームもしかりなのですが、自分たちだけで活動をしていても、どこか熱狂、熱中できない部分があります。ゲームの相手は普段から生活や行動を共にするような友人や仲間であり、各個人の性格や特徴、できることやできないことなどが見えているために、気を使い過ぎたり、役割を限定したりしてしまうからです。

しかし、そこに見知らぬ他グループが参加をしてくると雰囲気は一転します。グループが本当のグループに、チームが本当のチームになります。勝ったときには勝利のハイタッチ、負けたときには非常に悔しそうな顔をします。現有戦力を活用して、最大限の力を引き出すために皆が一生懸命役割や作戦を考え始めます。協調性なくバラバラではうまくいきませんし、勝利という明確な目標があるため団結力も高まりやすくなります。

以前、若者の支援活動をしている5団体を集めてフットサル大会を開催しました。見知らぬ他団体が整列し、異なる色のユニフォームで対峙しています。

仲間内で別れて試合をするのではなく、「普段の仲間=チーム」であり、「知らないひと=相手チーム」がいるわけです。ゴールを奪えば抱き合い、ハイタッチ。試合に負けたときには悔し涙が止まらなかった若者もいました。

試合前のミーティングでは、「相手は●●●」「向こうチームは×××」「俺たちは●●●」「こっちは×××」と、自分ではなく、自分たちをひとつのまとまりとして主体化する言葉がたくさん出てきました。あまり意見を言わない若者も、「自分はうまくないから、こうしてくれれば…」と、チームのために、勝利のために何ができて、何ができないかを考え、提案することもありました。

学校であれ、企業であれ、普段の「場」には上下関係や、力関係が現存し、発言者とそれに従う者は、ある程度決まっています。しかし、自分たちが知らない他グループが現れることで、その構造に変化をつけることができます。もちろん、劇的に変化することは稀かもしれませんが、普段出さない(出せない)感情や積極性を異なる環境が引き出してくれる。そのような力が他グループ(敵)とのかかわりが育んでくれます。この環境提供もまた、社会の側の役割なのではないでしょうか。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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