そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

9-1

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3rd Place
~もうひとつの場(1)~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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昨年、中学生を中心とした「いじめ」や「自殺」、それに付随する学校や地域の問題が注目されました。おそらく、いじめられた経験を持った若者のなかには「ひきこもり」や「ニート」状況になりやすいのではないかという推測があったのでしょう。取材や原稿の依頼がポツポツ来るようになりました。社会的孤立状況にある若者の中には、過去にいじめを経験し、学校を中退せざるを得なかったというケースもあります。

いじめられた経験により、社会とかかわれなくなってしまった事例ばかりが先行すると、まさに苦しい状況にある若者がみずからの将来に絶望してしまう可能性があります。むしろ、いじめられた過去があり、自殺が脳裏に浮かんだけれども、生きることを選択し、かつ、いまは「あのとき死ななくてよかった」と言える若者の事例をひとつでも世の中に広げることが大事なのではないでしょうか。きっと、本人だけではなく、先生や保護者もまた、そのような情報や事例を望んでいるのではないでしょうか。

私は、いじめや学校問題の専門家ではないため、先進国の事例や日本全体を網羅することは言えません。ただ、実際にかかわった若者の事例を基に、発言をすることには差し支えがないのではないかと思います。

現在、三船君(仮名)は25歳。埼玉で生まれた。小学校5年生頃から、アトピー性皮膚炎の状況が悪化し、クラスメートから「気持ち悪い」「三船菌」などと言われるようになった。落ち込む本人の異常に気づいた保護者はすぐに担任の先生に連絡。先生はクラスの生徒に、三船君の炎症について説明した。表面上のいじめはなくなったが、その後は“無視”されることになった。理科の実験や学校行事などでは“それなり”の関係であったが、休み時間や放課後などは誰とも話をしない日々が続いた。

先生としても生徒に「放課後も一緒に遊んであげなさい」とは言いづらかったのではないか、と三船君は話す。放課後にひとりになりがちな三船君に、先生は自分が時折通う「囲碁教室」を薦めた。囲碁を知らなかった三船君であったが、先生に言われるままに扉を開けたその教室で状況は一変した。そう話す三船君はなつかしそうであった。囲碁教室にあったのは、囲碁だけではなく、年齢も性別も、価値観もバラバラな人間が集う空間であり、自分をそのまま受け入れてくれる“3rd Place -もうひとつの場-”だった。学校であった嫌なことを話せる場、友人関係の悩みを打ち明けられる場。そんな自分を受け入れてくれる場がそこにはあった。結局、三船君は小学校を何事もなく卒業した。

三船君は「正直、“三船菌”とか言われたときは自分の存在価値を疑いました。ヒトとして生きる意味があるのかと思いました。でも、いまはどうでもいい過去です。先日、彼女ができました。いま、働いていても、休みのときも楽しく、嬉しいんです」と笑いながら話してくれました。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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