そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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講座からわかる高校生とフリーター
~フリーターのメリットは本当か?~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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フリーターにはメリットがたくさんある、というイメージを持った高校生に対して、リスクの観点を持っていただくには、一方的に誇張したデメリットを伝えるだけでは困難です。だからこそ、講座運営は参加型にこだわります。彼ら/彼女らが信じるフリーターのメリットに対して、彼ら/彼女ら自身が「本当にメリットなのか?」と疑問を持つ状況を作らなければなりません。

例えば、「自由に時間を使える」と言うのはどうでしょうか。確かに、自分の働きたい時間だけをシフト希望表に書いて提出すれば、希望に応じた形になるでしょう。そこで、講師は、その他の自由な時間を何に使いたいのか、と質問をします。すると、ほとんどの答えは、「友人と遊ぶ」でした。答えの前提には、自分が休みであれば、みんなも休みというのがあります。

そこで、数名に何曜日に休みたいかを聞けば、その答えはバラバラです。周囲が休みである週末と答えることもあれば、お店やアミューズメントパークが空いている平日と答えることもあります。友達と遊ぶための自由な時間に、遊ぶべき相手がいないことに気付くわけです。

また、「働いた分だけ給料をもらえる」と言うのは、サービス残業への拒否から来ています。サービス残業そのものはとんでもない話ですが、パートやアルバイトで言えば、働いた分しか給料をもらえないわけです。そこで会場に質問をします。

「現場作業で、雨が続いたら?」
「体調を崩したり、病気になってしまったら?」
「友人の結婚式が重なったら?」

確かに、働いた分だけ給料をもらえるのは事実ですが、一時的に働けない状況になることもあるわけです。すると、「自分は風邪を引きやすいので困る」とか、「学校の忌引きとは違う」という意見が出てきます。そこで、初めて気付き、考えるようになるわけです。フリーターもいいけど、そうでないのもいいのかも、と。

多数、講座を展開していて思うのは、大人が既に知っていることを壇上から切々と語っても、10代の学生に“自分のこととして”考えてもらうことは正直難しいということです。一方、彼ら/彼女らの意見や考えを出していただき、そこに対する異なる視点もまた、彼ら/彼女らから出してもらう。これだけでも効果はかなりあります。こちら側がすることはほとんどありません。

講座を通じてわかったこと、それは高校生の考えるフリーターは、比較的都合のよい情報だけで作られたイメージによるものであり、そのイメージに刺激を与えるためには、彼ら/彼女ら自身の意見を集約して、問題意識を持ってもらうのが効果的だということです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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