若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
16-116-1
若者とITを考える
~前編~
工藤 啓(くどう・けい)
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この9月から、東京都若年者就業支援プロジェクトの一環で、「若年者IT基礎訓練プログラム」を展開しています。ITといっても、非常に範囲が広いため、“基礎”に限定しています。さまざまなIT関連企業の方に、業界としてはどのような人材を求めているのか、またIT業界の未来はどうか、といったお話を伺い、参考にしながら進めているのですが、正直、社会の反応はいかがなものかと不安でした。しかし、蓋を開けてみると驚きの連続でした。
事前面接に来る若者のモチベーションは高く、第1期の定員(10名)はすぐに埋まり、予想以上に保護者の理解も得られました。また、IT関連企業の問い合わせも頻繁で、基礎的なところができていれば、あとは自社で育成できるので、プログラム卒業生を是非紹介してほしいという依頼が既に10社を大きく超えています。
なぜ、これほどまでにITへの関心、期待が高いのでしょうか。参加希望者に話を聞くと、その理由がわかりました。
フリーターとして生計を立てる27歳の男性は、「ゲームが好きで、一日中やっても飽きない。ただ、いつも自分なりのゲームアイディアがあった。できれば、ゲームをやる側ではなく、作る側の仕事に関心がずっとあった」と話してくれました。
「求人票には、IT経験者とかパソコンができる人と書いてある。聞いてみると『基礎的なことができれば』といわれる。どこまでが基礎かわからず不安だったが、このプログラムのレベルで十分なことがわかり、思い切って受講した」というのは、ひきこもり経験を持つ22歳の男性です。
日本では、中学や高校のカリキュラムにプログラミングの授業はほとんどなく、専門学校や大学で始めて触れるか、自分で独自に勉強するしかありません。市場にニーズはあるのに、経験する機会はほとんどありません。個人の関心は高いものの、チャレンジするにはハードルが高いようです。だからこそ、“基礎”という言葉に惹かれて来る若者が多いのでしょう。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか