若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
24-224-2
大人社会を読む
~後編~
工藤 啓(くどう・けい)
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都内の都立高校で一時間目から講義をする機会がありました。朝一番の授業ですから、まだ夢から覚めていない学生もいます。ある男子学生は、私が教室に入る前から机に突っ伏して寝ていたようです。熟睡しているように見えました。講義が始まっても動けず、担当の先生からも「放っておいてください」と言われてしまいましたので、普段のように声を掛けることもしませんでした。
50分間の講義が終わる頃、彼は目覚めました。表情を見ると、よく寝たという感じは見受けられず、ちょっと体調が悪いように見えました。講義が嫌で寝ていたというより、それ以外の選択肢が持てなかったのかもしれません。先生に促されて、感想文だけは書いていました。学生の数が少なかったので、彼のアンケートがどれかはすぐに分かりました。「講義を聞けない状況だったのだから、感想文など書けるわけない」と思ったのですが、読んでみて驚きました。
感想文の内容は素晴らしく、何より、“大人が喜びそうな”文章なのです。「本日はお忙しいなか講義に来てくださりありがとうございました。今日の講義を活かして、自分の将来をしっかりと考えていきたいと思います」云々。
講義が終わって、休み時間に彼をつかまえて立ち話をしました。もちろん、説教などをするつもりはありません。ちょっと気になったので、「今日の講義は寝ていたけど、感想文はすごくしっかり書いてあり、びっくりしたよ」と話したところ、彼は「寝ていたのはすみませんでした。ただ、感想文などで“寝ていた”とか“つまらなかった”などと書くと、学校側の講師に対する印象や評価が悪くなるでしょう。だから、“そこ”はちゃんと大人の求めるものを書きますよ」と笑顔で答えました。
私は、彼に対してとても“大人”だと感じました。良し悪しはともかくとして、です。大人の事情を理解し、大人社会を読める学生。一般的には「かわいくない」「素直でない」という評価をされてしまうかもしれませんが、社会人としてはどうでしょう。企業人としてはどうでしょう。相手(お客様)のニーズに合わせて、的確に対応できる人材かもしれません。方々で学生と話をしますが、ある部分、非常に“大人化”している若者が目立ちます。それに対して、“大人”が“大人”としてどのように接していくべきなのか、時代や世代の変化を読んでいかないと、「イマドキの大人」と言われてしまうかもしれません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか