そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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就活スーツについて
~前編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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もし、人事採用担当者が、面接に際して「スーツ」を来てこない若者と対峙したらどう考えると思いますか。おそらく、「社会性がない」「就職活動をなめている」「働く気がない」などと感じるのではないでしょうか。かつてなら、私はそう感じてしまったかもしれません。

話は変わりますが、2年前と比べて私の体重は10kg以上も軽くなっています。そう、ダイエットに成功したんです。人間ドックの結果があまりにも悪く、このままでは身体が危ないと感じました。体重は順調に落ち、今回の人間ドックは非常によい数字でした。

急激に体型が変わったため、以前から使っていたスーツが合わなくなりました。古いスーツを捨てるかどうか悩んでいたところ、職員から「就職活動をするためのスーツが買えない若者がいます。捨てるのではなく寄付してあげたらどうだろうか」と提案されました。

「スーツが買えない」

最初、その話に耳を疑いました。スーツは安いもので2万円もあれば揃えることができます。シャツ、ネクタイ、靴、鞄を揃えても4万円前後です。それが購入できないというのです。しかし、よくよく自らを振り返ってみると、成人式や働き始めたときのスーツは親に買ってもらった記憶があります。曖昧ですが、5万円くらいもらって一式買いました。

少し想像力を働かせればわかることですが、家計が苦しい家庭にとっての5万円は高額です。家族を支えるためにアルバイト代をすべて親に渡す若者もいます。そうなると、就職活動において“当たり前”とされる「スーツ」を買うのが困難な若者がいるのもうなずけます。

就職活動は、これから職場を見つけ、給料をもらって生活をするための“儀式”のようなものです。給料がもらえればスーツを買うことができますが、スーツがなければ就職活動で職場を見つけることが難しくなるわけです。スーツが準備できないから働けない。働けないから給料がもらえない。給料がもらえなければスーツは買えない。この悪循環から抜け出せず、働けない若者が現実にいることに、私は驚きを隠せませんでした。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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