そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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就活スーツについて
~後編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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なぜ、就職活動は「スーツ」着用でなければならないのか。そこには明確なルールはありません。また、スーツ着用は必須かと尋ねても、「そうだ」と答える企業はかなり少ないと思います。

スーツ着用でないと参加できない就活講座は参加率が下がります。20代半ばのある若者は高校時代の制服を面接で着て行きました。そういう若者が存在することを想像できますでしょうか。私は、この事実はしっかりと社会に知らせる必要があると強く思い、また、スーツが準備できない若者にスーツを貸与できる仕組みを作れないかと考えました。

2009年7月8日、スーツを集めるプロジェクトがNPO法人「育て上げ」ネットのメールマガジンを通じてひそやかに始められました。それからたったの3週間で、1,000着を大幅に超える「寄付スーツ」が全国から届けられました。テレビや新聞にもたくさん取り上げていただきました。日本社会はまだまだ捨てたものではない。そう感じています。

スーツを届けてくださる際、電話やお手紙で「スーツを買えない若者がいる」ことについてたくさんのコメントをいただきました。定年退職された方、わが子を若くして亡くされた方、就職活動氷河期で内定をいただくまで非常に苦労された方などさまざまです。

そのなかでも強く印象に残ったのは、ある女性の言葉でした。「大学時代、就職活動のために“リクルートスーツ一式”を揃えました。第一希望の企業にすぐ内定がもらえたのですが、そのためスーツを使ったのは3回だけです。ほとんど新品ですが寄付は可能でしょうか」という言葉です。

若者が就職活動をする際には、“リクルートスーツ”に代表される、黒や濃い紺などで上から下まで統一感を持たせます。しかし、実際に働き始めれば、それらのスーツを継続して使うこともありません。まさに、就職するためだけに一定基準のスーツを揃え、そして捨てる。一方では、それらに“乗れない”若者が存在している。

就職活動において、「社会性」や「協調性」ある若者を採用したいと考えるのは当然のことですが、できることならば、この「スーツ」のような、先々使いようもなく、金銭的にも負担が大きいものが“暗黙の前提”にならない社会になってほしいと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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