若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
37-137-1
価値観は“ソーシャル”へ
~前編~
工藤 啓(くどう・けい)
公開:
更新:
ソーシャルビジネス、ソーシャルアントレプレナー、社会貢献、社会的企業など、個人/組織と社会の関係性を強く示す言葉が目立つようになりました。社会全体に広がったとまではいかないかもしれませんが、社会というものに対する「価値観」の変化が急速に起こっているように思います。
実際に社会課題解決に向けて起業したり、NPO活動に参画したりというアクションを起こすひとだけではなく、消費行動のなかにも社会的な動きが顕著になっています。「この商品を買うと代金の○○%が××のために寄付されます」という広告も目立ちます。これまで意識されなかった個人/組織と社会のかかわりが、社会の閉塞感によって強く意識されるようになっているのかもしれません。
この“ソーシャル”への価値観変容は若者にも起こっています。いや、むしろ若者が巻き起こしたムーブメントに社会が動かされている。そういっても過言ではありません。
私がかかわる若者との何気ない会話の中にも、端々に「この社会を何とかしたい」「社会のために自分の時間や力を使いたい」という言葉が出てきます。安定した企業に雇用され、安定した人生を送る。そんな個人の幸せだけをベースとする人生モデルではなく、個人の幸せはもちろん、それと同時並行で社会もよくなっていく。そういう暮らし方、働き方、生き方に若者の価値観は傾倒しています。
就職活動の時期が差し迫ると、インターンシップの動きが活発化します。一定期間、企業でインターンシップをすることで、「仕事経験」を蓄積し、「自己成長」につなげていた学生も、最近ではインターンシップ先の企業を慎重に選択するようになりましたし、あえてNPO活動に飛び込む学生も増加しています。
私自身は、NPOだけが社会性を帯びた事業体だとは思っていませんが、“ソーシャル”に価値を感じる学生にとっては、NPO=社会的事業という感覚があるようです。どちらにしても、個人の人生と社会をつなげて考えることはとても大切なことだと思います。ただ、少しだけ気になるのは、“ソーシャル”に価値観を揺さぶられ、行動する若者にも若干の落とし穴が待っているケースに遭遇することです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか