若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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仕事につながるナナメの関係
~後編~
工藤 啓(くどう・けい)
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学校を卒業後に就職を目指す学生にとって厳しい状況なのですから、何らかのつまづきにより社会的なブランクができてしまった若者にとって、仕事に就くハードルはさらに高いものになります。社会的ブランクは履歴書に反映されます。企業も採用人材を厳選しています。一度にたくさんの履歴書を見る人事担当者からすれば、「何もしていない時期がある…」と思うわけです。
地元の定時制高校を中退し、5年間ほとんど外出できなかった若者を支援してきました。長期に渡る昼夜逆転の生活を立て直すのに1年、「働く」「働き続ける」状態にたどり着くのに1年を費やしました。とても素直で、優しい性格の若者です。
ハローワークはもちろん、フリーの求人雑誌、インターネットの求人サイトなどを活用して就職活動をしましたが、アルバイトとしての採用も決まりませんでした。緊張から面接でうまく話すことができないこともありますが、何より履歴書に記述する社会的ブランクの影響は小さくなかったと思います。
現在、彼は正社員として働き3カ月が過ぎています。先日、ふらっと遊びに来た際には、職場の人間関係もよく、順調に働けていると話してくれました。アルバイトに就くことも難しかった彼が、正社員としての仕事に就いたきっかけは「育て上げ」ネットのスタッフとの“ナナメの関係”でした。
幅広く地域の寄り合いに参加していたスタッフが、地元企業の社長が「若い社員の採用を考えている」との情報を聞きつけ、話を伺いに行きました。まさにこれからハローワークで求人募集をしようかという矢先に、「とても素直な青年がいますので、一度、面接していただけないでしょうか」と提案したのです。するとあれよあれよという間に面接日が決まり、採用が決まり、正社員としての生活が始まりました。周囲も驚くスピードで物事が進んでいったのです。
支援スタッフは、若者の保護者でもなければ、企業採用担当者でもありません。自宅と職業社会という関係からみれば、“ナナメの関係”です。いま、多くのひとが仕事を求めて就職活動をしています。年齢性別を問わず、ひとたび求人情報が出れば多くのひとがそれにアプローチしていきます。ハローワークや求人雑誌は仕事を探す大きな選択肢ではありますが、仕事を直接探す以外のつながりが個人を仕事につなげることは、案外、多いのではないかと思います。就職活動をする傍らに、仕事につながる“ナナメの関係”のための時間をつくることが、仕事への近道になる可能性があるんです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか