若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
38-238-2
大学生の就職不安
~後編~
工藤 啓(くどう・けい)
公開:
更新:
印象的だった学生の話を二つ書きたいと思います。ある地方出身の大学3年生の男性は、地元の凄惨たる状況を何とかしたいと思っています。しかし、現実的に地元に戻るとすれば公務員という選択にならざるを得ないため、現在は公務員試験に向けて勉強しながら、民間企業への就職活動も同時並行で行っています。
目下の悩みは、公務員として都市部で数年経験を積んだ後に地元に戻るか、地元ですぐに仕事をするか。もしくは、東京の民間企業で働いてから、地元で起業するか。自らの生活設計を加味すると考えがまとまらないことです。地元を想う強い気持ちがありながらも、将来に渡るキャリアと生活設計もしなければなりません。民間企業への就職活動だけでもやるべきことは膨大であり、公務員試験の準備もしなければなりません。現状の悩みと不安を抱えながらの“二足の草鞋”は精神的にもかなり堪えているようです。
就職活動に臨む段階での不安がある一方、内定を既に獲得していても不安は拭えません。ある国立大学4年生の女性は、某大手金融機関で働くことが決まっています。私が知る限りでは、かなり早い段階で就職が決まっていました。しかし、ここへきて将来への漠然とした不安が募っています。
「この会社で働く、で本当にいいのか」という不安です。周囲の友人からは「誰でも行ける会社でないのだから“もったいない”」と言われるそうです。ただ、本人としてはキャリアの先行きが見えていること、そして、人生の大半の時間をソコで使うことが自分にとって最善の選択なのだろうか、という悩みを抱えています。いまの就職状況を鑑みれば贅沢な悩みに思われますが、彼女にとってそれは関係ない要素です。それよりも、人生の分岐点の一つである卒後の進路として、それでいいのか不安なのです。
この二人が抱える悩みは、特別な学生の悩みや不安であるとは思えません。多かれ少なかれ、大学生は就職に不安を抱えています。確かに、現在のような就職環境の厳しい時期においては、彼や彼女の不安に抵抗感を持つひとはいるかもしれません。しかし、先行き不透明な状況において、学生が不安を持つことは当然という前提に立った上で、何かできることを一つでも、二つでもしてあげたいと思います。将来の日本を支える人材ですから。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか