若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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卒後生活への不安
~未内定より不安なこと~
工藤 啓(くどう・けい)
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卒業論文作成のためのインタビューとして、四年生の女子学生と会いました。自分の言葉でしっかりとお話されるのが印象的でした。しかし、雑談のなかでわかったのは、彼女はまだ就職活動を継続されていることでした。正直、「彼女でも決まらないのか」と思いました。いかに新卒採用市場の厳しさが伺えます。
インタビューは、質問に対する回答の繰り返しで順調に進みました。無事に終了した際、再び、就職活動の話になりました。私は、彼女が語ってくれた言葉に、未内定の先に起こりえる不安を感じ、それが頭から離れません。
「就職先がないことも心配なのですが、大学を卒業して、毎日行く先がない。所属がなくなってしまうことがとても不安です」
大学生であれば、「××大学の工藤です」、経営者を含む企業などで働いていれば「株式会社●●の工藤です」と相手に伝えることができます。学校や企業の肩書きあっての自分、という意味ではなく、“自分は何者か”がはっきりとする安堵感は生きていくうえで大変重要です。
特に、私たちNPO法人「育て上げ」ネットでは、無業の若者にご支援を差し上げていますので、彼ら/彼女らから所属のない苦悩や不安を、これでもか、というくらい聞いています。所属のある自分、行く場所がある自分、やるべきことのある自分。勉強や仕事、人間関係などで苦労することは多々ありますが、それらを失った若者の言葉からどれだけ“所属が安心をもたらすのか”わかります。
この時期の大学四年生や高校三年生といった来年度から「学生」ではなくなる方や、近い将来に社会という場に出られる方々に対し、私たちは「就職支援」をいの一番に考えるかもしれません。ただ、私は学生が不安に思っているのは未内定という状況のみならず、その状況が生み出しかねない不安、“所属の喪失”まで想像力を働かせ、少しでもチカラになりたいと考えています。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか