若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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卒後生活への不安
~故郷への愛情と東京への期待~
工藤 啓(くどう・けい)
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今年も、大学生の就職活動が話題となり始める時期が来ています。2010年10月1日時点の内定率は57.6%と、昨年の同じ月と比べてさらに低い数値となっており、大変厳しい状況が見て取れます。
就職先が決まらない大学生は、卒業論文や卒業制作の提出も迫っており、かなり追いつめられています。一方、就職が決まった大学生もまた、「本当にそこで働くのか?」という問いを自身に課しています。「どうすべきなのか」「どうしたいのか」「本当にそれでいいのか」。正解などないとわかってはいても、自分が納得できる進路を決めかねています。
地方から東京の大学に進学した男子学生は、「地元を何とかしたいんです」と大学二年生の頃から話していました。就職活動は他者がうらやむ結果でした。故郷の市役所から採用通知が届き、また、一部上場の企業から複数内定をもらいました。しかし、いまだ自身が卒後、どうすべきなのかを考えています。
採用された市役所の職員複数に、いまの故郷の惨状を変えるビジョンを求めても何も返答はありません。戻ってくる言葉の多くは、「何とかするのはもう国の仕事」「政治家が悪い」と他人任せ。彼は、「故郷復興には、行政職員の変革が必要になるが本当にそれができるのだろうか」という悩みを抱えています。
東京に残ることも選択できます。日本を代表する企業でもまれ、知識や見識、人脈を創る。多忙であっても、その間に故郷の人材とも関係性を創り、つなげていく。そして、いずれは故郷復興のためにキャリアを変更する。それが公務員なのか、企業人なのか、またはベンチャーで企業やNPOを立ち上げるか。
故郷への強い愛情と、東京に残ることで得られる期待。すぐにでも故郷の復興に役立ちたいが、そのためには“最速の回り道”が必要なのではないか。先日も遅くまで悩んでいました。就職先の獲得が厳しいなか、採用通知が届いた学生は幸せに映るかも知れません。ただ、実際に“成し遂げたいこと”が明確な学生ほど、そのための手段としての職場/就職先が適当であるのか、そんな悩みを抱えています。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか