若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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学び直しの取り組み
~学び直せる環境作り~
工藤 啓(くどう・けい)
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不登校や中退経験のある若者が、学びに対する苦手意識を克服し、自分に自信が持てる機会提供として「再学(さいがく)プロジェクト」を始めました。前回のコラムに書いた彼ら/彼女らの“学び直したい声”を意識して構成しています。
毎週、火曜日と木曜日の17:00から19:00までの二時間を使い、全10回で「国語」「英語」「数学」を再び学びます。受講費用はかかりますが、現在のところ、社会の皆様から頂戴した寄付により奨学金付与の制度を持って無償提供しています。
(キフボン・プロジェクト://www.kifubon.jp/)
私たちNPO法人「育て上げ」ネットには、学習支援のノウハウがありませんので、NPOキズキ共育塾とパートナーシップを結び、プロジェクトを実践しています。当初は5名ほど受講生が集まればよいとしていましたが、実際には定員を超える12名の若者が受講しています。男性も女性も、20代前半から30代後半まで、それぞれが再び学ぶことに対して不安を抱えながらも、自分と自分の未来に期待を抱き、学習に取り組んでいます。
ここまでひとりの“中退”もなく、みな前向きに受講しています。それを支えているのが、学び直せる環境作りにあると考えます。教室には、“教えるプロ”の他に、“支援のプロ”がおり、受講生の学習レベル、習得状況に応じて教え方を柔軟に変える教えるスタッフと、内容がわからず落ち込んでいたり、「やっぱり自分はついていけないのでは」と不安に駆られた受講生を支援するスタッフがサポートしています。つまずきを経験した若者が再び学び、成功体験を積み上げるためには両側面のサポートが重要です。
受講前のオリエンテーションや、毎回の講座には、参加者同士が志を共有できるようワークショップなどを取り入れています。また、自分ひとりでなく、みなで支え合いながらそれぞれの目標に向かっていく雰囲気を意識的に作るようにしています。
学び直せる機会提供は、これからの社会ニーズとして大きくなっていくように思います。しかし、単純に機会だけを提供するだけでは、つまずきを経験した若者の継続性を支えることはできません。機会の提供に加え、学び直せる環境作りも併せて取り組むことで、学び直しの効果を最大化し、受講生が最後まで参加し続けられるサポートが可能になります。もう一度、学びに取り組もうとする若者の声を真摯に聞き、機会として提供することが最も大切であることは言うまでもありません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか